国土地理院時報(2011,121集)要旨

An Attempt to Detect Transient Crustal Deformation around the Bungo Channel by SAR Interferometry Using PALSAR Data
 
測地部 野口優子・鈴木 啓
地理地殻活動研究センター 飛田幹男・小林知勝
測地観測センター 矢来博司
 
【要 旨】
  国土地理院は,陸域観測技術衛星「だいち」に搭載されているLバンド合成開口レーダーの観測データを用いて,SAR干渉解析を定常的に実施している.定常的に監視する解析地域は,地盤沈下・火山・地すべり地域を対象としている.これらの地域以外に,地震等の災害発生時には緊急的な解析を実施し,地殻変動を空間的に把握することを行っている.
  2009年秋頃から豊後水道では,通常とは異なる非定常的な地殻変動がGEONETの観測により捉えられている.この地域では,1997年および2003年にも同様の地殻変動が観測されており,プレート境界面で「ゆっくり滑り(スロースリップ)現象」(以下,「スロースリップ」という.)が発生したと推定されている.プレート境界面での滑り領域を推定する上で,空間的に詳細な地殻変動を把握し,その情報を共有することは重要である.そこで本地域においてSAR干渉解析を実施し,非定常的な地殻変動を空間的により詳細に把握する試みを行った.その結果,スロースリップに伴う地表変位の空間分布やその変動量を,東西方向及び上下方向の成分に分離して把握することができた.
 
  本文[PDF:1,285KB]
 
Gravity Measurements with the Portable Absolute Gravimeter FG5 at Antarctica (IV)
 
測地部  菅原安宏
 
【要 旨】
  2009年11月から2010年3月までの間,第51次日本南極地域観測隊(The 51st Japanese Antarctica Research Expedition:JARE-51)の夏隊に参加し,昭和基地において通算で6回目の絶対重力測定を実施した.測定に使用した機器は可搬型絶対重力計FG5(#203,#104)2台で,FG5を用いた測定は6年前のJARE-45に続き4回目である.測定は,2009年12月末から2010年1月末までの約1ヶ月間,昭和基地重力計室に設置してある基準重力点「昭和基地」とその予備点の2点において,2台同時連続観測を行った.今回の測定を含む過去4回の測定の結果,全測定値がFG5の拡張不確かさ(測定の信頼性を表すための尺度)の範囲内にあるものの,過去16年間でわずかな重力の減少傾向が検出された.
  昭和基地周辺において,2万年前から6千年前までの氷床融解に伴う地殻の隆起現象(Post Glacial Rebound:PGR)と,最近の地球温暖化に伴う氷床融解による地殻の隆起現象が同時に発生していると考えると,各現象の隆起量は,重力と地殻変動のデータを用いて分離できることが報告されている(中田・奥野,2001).試算の結果,PGRは5.3±2.7mm/yrの速度で発生しており,地形学的データから推定されている隆起速度と調和した傾向を示した.
 
  本文[PDF:604KB]
 
Fundamental Survey of City Block for Urban Renaissance (Survey for Land Use Promotion) in FY 2007-FY2009
 
測地部 鈴木 実・土井弘充・秋山忠之・佐野伸明・森下 一・ 石川典彦・高畑嘉之・松尾健一・宮崎孝人
【要 旨】
  平成19年度から地籍整備の前提となる街区の外周位置のより詳細な基礎的情報の調査を行い,最も遅れている都市部の地籍調査の進捗を図るとともに,都市部の土地活用を推進する目的で,都市再生街区基本調査(土地活用促進調査)事業が開始された.
  この事業は,土地の権利関係が複雑で地籍調査事業が遅れている全国の都市部における同事業の推進を図るため,国土交通省土地・水資源局国土調査課が事業主体となり,国土地理院が実施した.本稿では土地活用促進調査事業における国土地理院の実施概要について報告する.
 
  本文[PDF:415KB]
 
1:25,000-scale Active fault map on the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
地理調査部 星野 実・鈴木義宜・岩橋純子・吉武勝宏
関東地方測量部 田中庸夫
測図部 高橋広典
 
【要 旨】
  平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震は,岩手県内陸南部を震源とする地震(M7.2)で,地すべり及び斜面の崩壊が多数発生した.国土地理院では,地震による被災地の復旧・復興に寄与するため,地表に現れた地震断層及び崩壊・地すべり・土石流等の分布を空中写真判読によって調査し,「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震1:25,000詳細活断層図(活断層・地形分類及び地形の変状)」を作成した.また,詳細な航空レーザ計測を行い,地震前後のDEMによる地形差分図の作成,地形変状の解析を行った.
 
  本文[PDF:1,210KB]
 
Paleogeography of Chubu District since Jomon Period, Holocene
 
地理調査部 橋本政幸・山本洋一
 
【要 旨】
  国土地理院では,平成10年度から国土の整備・管理に必要な基礎資料とするため,各地方整備局と連携し「古地理に関する調査」を実施してきた.平成18年度からは4年をかけて中部地方整備局の協力を得ながら,同管内の調査を実施した.
  本稿では,中部地方の調査の総括として,本調査の実施目的と調査内容,及び各流域の調査の概要と調査結果をとりまとめた.
 
  本文[PDF:1,288KB]
 
Investigation about Spatiotemporalizing of Medium Scale Level Geospatial Information
 
地理地殻活動研究センター 中埜貴元・小荒井 衛
 
【要 旨】
  様々な地理空間情報のうち,主に2万5千分1地形図のような中縮尺レベルの情報を対象に,時空間化仕様を検討し,時空間化によるメリットや効率的な更新方法について考察した.
  時空間化仕様の柱となる時間情報については,時間に曖昧性を持たせた構造とし,ユーザに対して可能な限り適切な情報提供ができ,管理者にとっても整備の容易性に配慮した仕様を提案した.発生消滅型データについては,既研究成果を参考にし,被覆型データについては,発生消滅型データと同じ時間構造を担保できる仕様を新たに提案した.
  このデータ仕様に基づいて,つくば市の研究学園駅周辺において,過去10年間の時空間データセットを構築した.そのデータ更新に要した人日数は,現状のデータ更新に比べて約2倍となり,初期データの作成手法やその後の更新手法については課題が残された.なお,本論文は研究の視点から地理空間情報の時空間化を検討したものであり,国土地理院の今後の事業の方向性を論じたものではない.
 
  本文[PDF:1,344KB]
 
The Revision of Altitudes of Triangulation Points in Kii Peninsula
 
中部地方測量部  岩田昭雄
測地部  越智久巳一
 
【要 旨】
  国土地理院は,位置の基準となる基準点の確かな測量成果(緯度,経度,標高)を提供している.
  紀伊半島では,三角点の標高成果に不整合がみられたため,平成19年度に「成果不整合地域における三角点改測(以下,「三角点改測」という.)」作業を実施し,紀伊半島南部で三角点57点を改測した.その結果,標高の変動量が+50cmを超える地域が広範囲に確認されたため,紀伊半島地域において三角点の標高成果を改定することとした.これまで三角点と電子基準点との間で測量成果の標高に不整合がみられたが,この成果改定によって,地殻変動の影響が解消された三角点の標高成果が提供可能となり, 測量作業を効率的に行うことが可能となる.
  本稿は,紀伊半島地域の標高成果改定の計算手法や得られた成果をまとめたものである.
 
  本文[PDF:717KB]
 
The Revision of Altitudes of Triangulation Points in Touhoku Region
 
測地部  湯通堂 亨・東海林 靖・嵯峨 諭・檜山洋平
 
【要 旨】
  国土地理院は,位置の基準となる基準点の確かな測量成果(緯度,経度,標高)を提供している.
  三角点の標高成果は,世界測地系に移行されたときに改定していないため,地域においては不整合がみられる.そのため,国土地理院では北海道地域,紀伊半島地域に続き,東北地方の標高改定を実施した.
  本稿では,東北地方の標高成果の改定の計算手法や得られた成果をまとめたものである.
 
  本文[PDF:554KB]
 
Efforts of Geospatial Information Authority of Japan in G-spatial EXPO
 
企画部  諸橋 拓・伊東欣英・出口智恵・村上英治・田中宏明
 
【要 旨】
  「G空間EXPO」が平成22年9月19日(日)~21日(火)の3日間パシフィコ横浜で開催された. 「G空間EXPO」は,広く国民一般を対象として,G空間社会の実現に向け,地図の流通,ナビゲーションなど新産業の創造に寄与する講演会やシンポジウム,新商品・新サービスの展示会及び関係者の情報交換会等について,産・学・官の連携のもと初めて開催されたイベントである.
  展示会には,189の出展者により629小間の出展があり,子供から大人まで様々な世代が楽しめるようG空間社会をよりわかりやすく紹介した.また,講演・シンポジウムは34テーマで開催され,こちら も多数の入場者があった.(展示会の来場者数36,819人(延人数),シンポジウムの参加者数3,838人)
  国土地理院ではこれまでも,地理空間情報活用推進等に関する施策を重点項目として実施しており,「G空間EXPO」においても,国土地理院の役割,取り組みを紹介する絶好の機会と捉え,戦略的かつ積極的に携わった.本稿では,その取り組み内容について報告する.
 
  本文[PDF:849KB]
 
The Report of Lake and Wetland Survey of “Lake Furen and Onneto” Area, Hokkaido, J apan
 
地理調査部  木村幸一・内川講二・野口高弘・三谷麻衣・新西正昭・畠山真介
 
【要 旨】
  国土地理院では,2002(平成14)年から,湖沼・湿原の保全及び環境と調和した利用の促進に必要な基礎的地理情報を整備・提供することを目的として湖沼湿原調査を実施している.湖沼湿原調査は,湖沼の湖底地形・底質・水中植物を調査する湖沼調査,湿原とその周辺地域の地形及び複数時期の土地利用を調査するもので,その成果を報告書,地図(報告書付図)及びGIS用のデータとしてとりまとめ提供 している.
  本報告は,2008(平成20)~2009(平成21)年にかけて北海道根室市から別海町・浜中町にわたる風蓮湖周辺及び温根沼地区で行った湖沼湿原調査の概要と調査結果についてまとめたものである(図-1).
 
  本文[PDF:1,684KB]
 
A More Concise Method of Calculation for the Latitude Corresponding to Arbitrarily Given Meridian Arc Length from the Equator
 
企画部  河瀬和重
 
【要 旨】
  平成23年4月に公共測量に係る「作業規程の準則」の一部改正が施行されたことに伴い,赤道からの子午線弧長を与えて該当する測地緯度を求める計算式が新たに規定された.この計算式は,それ以前までに規定されていた式よりも簡潔である上に収束が速く,将来の楕円体パラメータの変更に際しても 汎用性を保持したものであるが,現状においては式の導出過程が非常に難解であるため,将来の計算機性能向上に備えた精度拡張は容易なことではない.
  本論では,非常に単純明快な数学定理を用いて赤道からの子午線弧長を与えて該当する測地緯度を求める計算式を簡明に導出する方法論を紹介する.当該方法論の適用にあたっては,無償の数式処理システムである“Maxima”を用いて,新たに規定された計算式の正確性を改めて確認するとともに,併せて当該計算式について,将来の拡張に備え十分な精度を有する高次の項まで実際に導出を試みた.さらに,一般的な計算機が有する有効桁の観点から当該計算式の精度を評価した.
 
  本文[PDF:304KB]
 
A More Concise Method of Calculation for the Coordinate Conversion between Geographic and Plane Rectangular Coordinates on the Gauss-Krüger Projection
 
企画部  河瀬和重
 
【要 旨】
  現行の公共測量に係る「作業規程の準則」においては,地球楕円体上の経緯度座標及び平面直角座標系におけるX, Y座標の相互間の座標換算にあたっての計算式が提示されているが,非常に複雑かつ規則性の無い展開式であり,使用する変数の種類も膨大なものとなっている.一方で,当該座標系の投影に用いられているGauss-Krüger投影法の根拠となっている,1912年に発表されたJohannes Heinrich Louis Krügerの原論文には,若干コンパクトにまとまった座標換算式が提示されている.
  この式はコンパクトではあるものの,現行の計算式に比べ導出過程の理解がやや困難であるため,本論では,最近発表された関係論文の紹介及び筆者自身の勉強も兼ねて,Krügerの原論文に掲載された内容の解説を試み,併せて数式処理ソフトウェアを用いて導出過程の再確認を行うとともに,Webブラウザ上で当該計算方法を用いた座標換算の確認計算を可能とする,極く簡単なプログラムのソースコードも例示することとする.
 
  本文[PDF:335KB]
 
Distribution of Ortho Image Data Set via Digital Japan Web System
 
地理空間情報部  小清水寛・佐藤壮紀・首藤隆夫
 
【要 旨】
  国土地理院では,電子国土Webシステム上で様々な背景地図画像を配信してきた.他方,地図と重ねられる写真画像に関しては,近年の社会的要望の高まりに応じて,複数のオルソ画像が国土交通省内で整備されている.そこで,国土地理院では平成22年度新たに,オルソ画像の整備データを電子国土Webシステム上で配信するための作業に着手した.
  整備データの配信にあたっては,期待される画質や閲覧スピードに応じた表示縮尺レベル・画像フォーマットの選択が必要である.選択された結果は,配信データの仕様及び電子国土Webシステムの設定ファイルにも適切に反映されなければならない.本稿の前半部では,配信データの満たすべき仕様や電子国土Webシステムの設定に焦点を当てている.
  整備データと配信データは,ともに敷き詰められた矩形タイルの集合体として構成されているが,整備データの矩形範囲を規定する仕様(座標系・画像サイズ)は様々である.従って,配信データの作成にあたっては,整備データの画素(画素集合)と配信データの画素の間に発生する関係を明確に理解する必要がある.本稿の中ほどでは,この関係に焦点を当てて,配信データ作成の原理を記述した.
  利用者の要望に応えるためには,配信データの諸元や範囲に関する情報を明示するとともに,オルソ画像だけでは把握できない地理的情報を付加する取り組みが必要である.本稿の後半部では,配信データの地上解像度,インデックスマップ作成,地図画像との動的重ね合わせ事例について記述している.
  本稿では,一連の作業で採用した画像処理環境(処理言語等)についても言及している.本稿の中ほどで記述した配信データ作成の原理は,これらの処理環境を通じて容易に実装される.原理の明確化と実装の容易化が,データの瑕疵を修復する際に効力を発揮した事例も存在する.
 
  本文[PDF:828KB]
 
Improvement of the Remote GPS Monitoring System (REGMOS) and its Effect
 
測地部  横川正憲・平岡喜文・松村泰敬・根本盛行
 
【要 旨】
  国土地理院では火山地域における地殻変動監視のため,GPS火山変動リモート観測装置(Remote GPS Monitoring System.以下,「REGMOS」という.)を,監視対象の火山地帯や地殻変動の大きな地域に設置している.本稿では,REGMOSを8角柱型の筐体に改良し,各種観測センサを取り入れHybrid化したREGMOS(以下,「REGMOS-H」という.)の特徴と,平成22年8月に北海道樽前山へ設置したREGMOS-H「M樽前山A」の各種取得データについて報告する.
 
  本文[PDF:974KB]
 
Investigation of Tectonic Landforms Using Anaglyphs Made from LiDAR DEMs
 
応用地理部  岩橋純子・佐藤 忠・内川講二・小野 康・下地恒明・星野 実
 
【要 旨】
  国土地理院では,国土地理院研究開発基本計画に基づき,「航空レーザ測量による活断層調査の高度化に関する研究開発」を行っている.本稿では,航空レーザ測量による活断層調査の高度化に関する研究開発の一環として,航空レーザ測量のDEMから作成した余色立体図等を作成した事例を紹介する.DEMは数値データであるため,倍率を加えることによって,地形の立体感を強調できる.さらに,標高値の対数から図を作成することによって,平地の凹凸を強調すると同時に段丘や山地については強調し過ぎないように抑え,広域を観察するために効率的な図を作成できる.また,空中写真と比較した最大の利点は,シームレスに広範囲を観察できることや,平野部の密集市街地について,建物の除去・凹凸の強調の上,地形を観察できることである.5mDEMから作成した画像は,おおむね,2万分1のモノクロ写真程度の判読性能であり,地形調査の実用に耐えると考えられる.
 
  本文[PDF:4,183KB]
 
GSI’s Activities toward the Development of Global Map version 2
 
応用地理部  飯村 威・中村孝之・大塚 力・鵜生川太郎・中南清晃・本嶋祐介・須賀正樹・谷田部好徳
 
【要 旨】
  地球地図プロジェクトは,地球環境の現状と変化の把握及び地球温暖化等地球規模の諸課題に適切に対処するために必要な全球の基盤的地理空間情報である地球地図を,世界の国家地図作成機関(National Mapping Organization.以下,「NMO」という.)を中心に国際的な協力の下で整備するものである.データは解像度1km(縮尺100万分1相当)の統一仕様で作成され,これにより国境を越えて各国間の比較が可能となる.国土地理院は,我が国のNMOとしてプロジェクトに参加して地球地図日本を整備・公開しているほか,地球地図国際運営委員会(International Steering Committee for Global Mapping.以下,「ISCGM」という.)事務局として地球地図整備及び普及促進の中心的役割を果たしている.現在,2012年の地球地図第2版完成に向けて各国のNMOと協力してデータ整備を進めている.
  本稿では,地球地図日本第2版整備及び開発途上国等に対する地球地図第2版整備の支援並びに地球地図の普及促進の取り組みを紹介する.
 
  本文[PDF:1,704KB]
 
InSAR Analysis of the 2010 Fukushima-ken Nakadori Earthquake (M5.7)
 
地理地殻活動研究センター  小林知勝・飛田幹男
測地部  鈴木 啓・野口優子
 
【要 旨】
  2010年9月29日に発生した福島県中通りの地震(M5.7)に伴う地殻変動を抽出する目的で,陸域観測技術衛星「だいち」の合成開口レーダーデータを用いたSAR(Synthetic Aperture Radar.以下,「SAR」という.)干渉解析を行った.解析の結果,震央近くの戸倉山を中心に12cmを超える衛星-地表間距離の短縮を示す地殻変動が観測された.干渉解析結果をもとに,半無限弾性体中での矩形断層一様滑りを仮定した震源断層モデルを構築したところ,ほぼ南北方向の走向をもつ傾斜角65°の断層面上で,滑り角を約80°とする逆断層成分が卓越する滑りが起きたと推定された.震源断層は戸倉山のやや東の深さ2kmの位置に求められた.モデル計算により推定された断層の深さは,気象庁一元化震源カタログの深さ(約8km)より有意に浅い.8kmの深さではMw5.5相当の断層滑りを与えても位相変化量は最大でも-2cm程度であり,観測量を説明するためには深さ2km付近で断層の滑りが必要であることがフォワードモデル計算からも示された.また,断層運動に伴う地殻変動のほかに,戸倉山東部の斜面の一部に地震性の地殻変動とは異なる衛星-地表間距離の伸長を示す地表変位が観測された.地形傾斜との相関から地滑り性の地表変位と考えられる.斜面の傾斜方向に沿った地表滑りによるものと仮定すると,おおよそ12cmの滑りで観測された変位量の約6cmを説明できる.
 
  本文[PDF:3,971KB]
 

小特集:霧島山(新燃岳)の噴火

Actions of GSI in Response to the Eruption of Kirishima (Shinmoedake) Volcano
 
企画部  仲井博之・瀬川秀樹・秋山一弥・松本 哲
九州地方測量部  錦 輝明
 
【要 旨】
  霧島山(新燃岳)は,2011年1月26日に小規模な噴火が発生し,気象庁は火口周辺警報(噴火警戒レベル3,入山規制)を発表し,火口から居住地域近くまでの広い範囲で警戒が必要であると警戒を強めた.30日には溶岩が直径500m程度の大きさに成長し,2月1日の爆発的噴火により火口から4kmが警戒範囲となった.その後も幾度か噴火し,空震や噴石・火山灰によって窓ガラスの破損や山麓の農作物に被害を及ぼした.
  国土地理院では,霧島山(新燃岳)の火山活動の対応としてGPS火山変動リモート観測装置(Remote GPS Monitoring System.以下,「REGMOS」という.)設置,防災・測量用航空機「くにかぜIII」(以下,「くにかぜIII」という.)による空中写真撮影と合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar.以下,「SAR」という.)の観測,干渉SARやGPSによる地殻変動解析を実施した.得られた画像や解析結果は,適宜HPで公開するとともに,保有する地図データ等を関係機関へ提供した.
 
  本文[PDF:210KB]
 
The Urgent Installation of Remote GPS Monitoring System (REGMOS) and Observation of the Volcanic Activity of Mt.Kirishima (Shinmoedake)
 
測地部  針間栄一朗・田中和之・横川正憲・松村泰敬・根本盛行
 
【要 旨】
  2011年1月28日に測地部,測地観測センター及び地理地殻活動研究センターで構成する災害対策連絡会が開催され,霧島山(新燃岳)における観測体制を強化し,より詳細な地殻変動を把握する目的で,GPS火山変動リモート観測装置(Remote GPS Monitoring System.以下,「REGMOS」という.)の設置を決定した.その決定を受け,機動観測課職員4名及びREGMOS運搬・保守契約者2名が現地入りし,2月2日12時30分頃にREGMOSの設置を完了させ,観測を開始した.
  本稿では,機動観測課で実施したREGMOSの緊急設置作業の概要と得られた測量結果などについて報告する.
 
  本文[PDF:1,359KB]
 
Crustal Deformation Associated with the Eruption of Shinmoedake Volcano, Kirishima Volcanic Group
 
測地観測センター  川元智司
測地部  野神 憩・横川正憲
 
【要 旨】
  国土地理院では,霧島山周辺で電子基準点によるGPS連続観測を行っている.電子基準点では,2009年12月頃から噴火まで山体の膨張を示すと思われる基線の伸びが観測され,山体北部に位置する「えびの」,南西部に位置する「牧園」では山体から遠ざかる向きにそれぞれ2.1cmの水平変位が観測された.噴火発生後,「えびの」,「牧園」では2011年2月1日にかけて山体に向かってそれぞれ1.4cm,1.7cmの変位が観測され,急激な山体の収縮が発生した.2月以降は,周辺の電子基準点において噴火前と同様の変動が継続しており,2011年7月中旬時点で噴火前までの変位量の約3分の1に達している.
 
  本文[PDF:1,367KB]
 
Source Model of Kirishima Volcano Based on GPS Integrated Analysis in Volcanic Region
 
地理地殻活動研究センター  今給黎哲郎・大脇温子
 
【要 旨】
  霧島山新燃岳では,2011年1月26日に本格的なマグマ噴火が始まり,1月27日にかけて大量の火山灰や軽石が火口から噴出する準プリニアン噴火となった.続いて1月28日頃から火口内に溶岩が噴出し始めた.溶岩の流出は2月1日に至って終息したが,その後は噴石や火山灰を爆発的に放出するブルカノ式噴火が,散発的ではあるが繰り返し発生している.
  国土地理院では,周辺の電子基準点のデータを用いて今回の噴火発生以前から霧島山の地殻変動を監視していた.2009年12月頃までは長期的に短縮あるいは停滞傾向であった霧島山周辺の基線が,2009年12月中旬から伸張に転じた可能性があることを2010年3月末に確認して公表した.膨張性の地殻変動は2010年春以降も継続していることが観測され,GEONET(GPS連続観測システム.以下,GEONET」という.)と気象庁及び(独)防災科学技術研究所が霧島山周辺に設置しているGPS観測点のデータも合わせて用いる火山GPS統合解析の結果も用いて,インバージョンによる膨張源の推定を行って火山噴火予知連絡会にも報告した.本稿では,霧島山新燃岳の噴火に至るまでの膨張性地殻変動の状況とそのデータから推定された変動源モデル,噴火時の収縮と噴火後の再膨張に関わる変動源モデルについて報告する.
 
  本文[PDF:807KB]
 
Observation of Volcanic Crater of Mt. Kirishima (Shinmoedake) by Airborne SAR
 
測図部  下野隆洋・南 秀和・西井康郎・大野裕幸・渡部金一郎
 
【要 旨】
  霧島山(新燃岳)では,2011年1月26日に発生したマグマ噴火以降2月11日までに10回の爆発的噴火が発生した.その間も継続的に噴煙が立ち上っており,火口付近の地形把握を目的とした鉛直空中写真の撮影が困難な状況であった.
  そこで,噴煙等が上がっている状況下でも地表面の観測が可能な合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar.以下,「SAR」という.)を国土地理院所有の防災・測量用飛行機(セスナ208B.以下,「くにかぜIII」という.)に搭載し,2月1日及び2月7日の2度にわたって観測を実施した.この時期はマグマが火口内に噴出していた頃であり,噴出したマグマ量を定量的に求める手段としてSARによる観測が期待されていたところでもあった.実際に観測データを解析したところ,火口にできた溶岩は最大590m×560mの矩形の角を丸めたような形であり,噴火によって生じた火口内堆積物の量は約1,900万立方メートルであるとの結果が得られた.
 
  本文[PDF:1,862KB]
 
Estimate of Crustal Deformation and Pressure Sources of Mt. Kirishima (Shinmoedake) Volcanic Activity, Derived from InSAR Analysis Using Daichi SAR Data
地理地殻活動研究センター  小林知勝・飛田幹男・今給黎哲郎
測地部  鈴木 啓・野口優子・石原 操
【要 旨】
霧島山(新燃岳)の火山活動に伴う地殻変動を面的に捉えることを目的に,陸域観測技術衛星「だいち」の合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar.以下,「SAR」という.)データを用いた干渉解析を行った.その結果,噴火前のSARデータを用いた干渉解析から,膨張性の地殻変動が新燃岳の西北西の領域で観測された.北行軌道のデータを用いた干渉画像によると,変位の中心は韓国岳の西約5kmにあり,変動開始から2010年11月末までに最大約-4cmの衛星-地表間の距離変化があった.さらに噴火前と噴火後に撮像されたSARデータのペアによる干渉解析からは,膨張性の地殻変動とほぼ同じ領域で,収縮性の地殻変動が観測された.観測された膨張性及び収縮性地殻変動の力源を求めるため,球状圧力源モデル(茂木モデル)を仮定したモデル計算を行ったところ,膨張源,収縮源はともに新燃岳の西北西約5kmの位置に求まり,深さはそれぞれ,6.8km,6.1kmと推定された.2010-2-17~2010-11-20及び2010-11-20~2011-2-20の期間の膨張及び収縮に伴う体積変化量はそれぞれ10.6×106m³,-10.2×106m³と見積もられた.SAR干渉解析から推定された圧力源の位置は,水平位置,深さとも,GPSデータから推定された圧力源の位置と調和的である.
  本文[PDF:6,446KB]
Responses of Geospatial Information Department of GSI to the Eruption of Kirishima Volcano in 2011
 
地理空間情報部  小清水 寛
 
【要 旨】
  国土地理院は,災害発生時に被災前後の状況を示す様々な地理空間情報(写真情報,地殻変動情報,地図情報)をWeb等により公開している.これらの公開作業は地理空間情報を作成した部毎に行われる場合と,電子国土Webシステム上にある程度集約して公開する場合がある.霧島山(新燃岳)の噴火にあたり,地理空間情報部では院内各部で作成された地理空間情報を電子国土Webシステム上で背景地図に動的に重ね合わせ,情報発信する作業を実施した.
  作業を通じて,電子国土Webシステム(特に非プラグイン版)での情報発信には課題があることが判明した.院内各部で作成された画像情報を背景地図へ重ね合わせる際に,画像情報のサイズ等によっては,タイムアウトや透過処理の失敗などが発生することがある.様々な制約のため,この課題をWebシステムの機能変更という抜本的な方法によって解決することは、現状では難しい.そこで,電子国土Webシステム(非プラグイン版)の現状の基本機能を変えることなく課題を解決するために,画像情報を背景地図画像と同じサイズの矩形タイルに分割する手法を考案した.分割した矩形タイル画像について地図画像との合成,サイズ圧縮などの処理を施したのちに,電子国土Webシステム(非プラグイン版)の背景地図として埋め込む方法と,電子国土Webシステムを使わずに連続的に表示させる二つの方法を試みた.
 
  本文[PDF:1,922KB]
 


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