合成開口レーダーによる2005年パキスタン北部地震に伴う地殻変動計測とその技術的背景
合成開口レーダー画像マッチングによるパキスタン北部地震の地殻変動図要旨 2005年10月8日にパキスタンでマグニチュード7.6(USGS発表)の地震を引き起こした震源断層の位置と広がりを推定するため、欧州宇宙機関のENVISAT衛星が取得した地震前後の合成開口レーダー画像を精密に比較したところ、地殻変動の様子が地図上に浮かび上がりました。震源断層は、既知の活断層、ムザファラバード(Muzaffarabad)断層、及び、タンダ(Tanda)断層が活動したものであることが判明しました。被害の大きかった地域は、地殻変動の大きな場所付近に位置していたことがわかりました。ここでは、その結果の概要とともに、技術的背景をご紹介します。
報告書「合成開口レーダー画像マッチングによるパキスタン北部地震の地殻変動図」[PDF:811KB]
図と概要上下方向の変動に換算すると黄色と赤色の部分は約1~6mの隆起を示しています。 活断層線は、 中田 高・熊原康博, 2005, パキスタン北部地震震源地域の活断層(予察), 日本地理学会「災害対応のページ」http://www.fal.co.jp/geog_disaster/20051018_pakistan.html によるものですが、今回の地震はこの活断層が活動して起こったことが証明されました。 SARの画素の並び、視線方向、地殻変動の計測原理今回使用したSAR画像を撮影した際のSAR衛星と地表の位置関係を右図に示しました。SAR衛星は上空から斜めに地表までの長さを測って画像化します。 左のSAR画像は、ムザファラバードを中心としたSAR画像ですが、画像左側より、右側の方が衛星に近づくように画素を配置しています。 衛星の方を向いた斜面はレーダー電波が強く反射されるので、白になっています。この白い所がその左側の黒い部分(山の西側斜面)より、狭くなっています。これは、この画素の並べ方に原因があります。衛星と地表の距離は、標高の高い所ほど短くなりますから、高さの分だけ画素位置は右側になります。この現象をフォアショートニングといいます。 今回の地殻変動では、山がより高くなったわけですから、画素位置はわずかに右側に移動したのです。ずれ量は、最大約0.6ピクセルで、画素間隔が、7.8mなので、4.7mだけ衛星に近づくような変動があったことが計測できるわけです。 地殻変動計測に使用された技術:SAR強度画像の画像マッチング法 2つの画像の位置合わせ(マッチング)をして残った位置ずれが地殻変動です。
左の図は、地震前と後のSAR画像、Mster画像とSlave画像です。説明のため、地表に描かれたアルファベットを撮影する場合の模式図です。 撮影時には、衛星の位置・方向が同一とならないため、撮影された2つの画像内の画素(ピクセル)の位置は全体的にずれています。 この全体的な画像の位置ずれ(offset)を直すことを画像マッチングといいます。 「K」の文字で示したように、地殻変動により部分的に画像のずれがあった場合、画像マッチング後に位置ずれが残ります。これを、residual offsetといいます。 もし、位置ずれ量が整数ピクセル(画素)単位でしか計測できないなら、ピクセル間隔である約5m単位でしか、地殻変動計測ができません。 しかし、私達は、2次元の32倍FFTオーバーサンプリングを行うことにより、32分の1ピクセル分解能での画像マッチングを行います。 これにより、約10数センチ~数10センチ分解能で、地殻変動計測が可能です。 分解能は、干渉SARより劣りますが、大きな地殻変動の計測に適しています。 2つの画像が最も良く一致するずれ量を相互相関のピークとして検出する際、32倍FFTオーバーサンプリングでピーク付近を拡大して、細かくずれ量を測定します。
この技術は、元々0.1画素以内で位置合わせが必要な干渉SARのために、開発されましたが、それ自体で変動検出が可能なように、改良しました。 関連する過去の論文
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