地理地殻活動研究センター談話会 講演要旨集(2004年)

東海スロースリップイベントの位置
海津 優(地理地殻活動研究センター長)

2001年ころ報告され、現在にいたってもまだ継続している東海のスロースリップイベントは、この隆起域が遠州灘側に張り出した領域に起こっており、1999年1年間の水平変位速度と2003年1年間の水平変位速度の差を見ると、南南東乃至南東向きの速度変化があった事がわかる。小沢はこの変動を、プレート境界のフォワードスリップで説明している。推定されるフォワードスリップは南東向きであるが、1999年以前の変動で期待されるバックスリップは西北西を向き、何らかの理由で現在生じているスロースリップイベントには、広域に南向きの滑りが付け加わっていなければならない。
ここでは、この南向きの滑りを説明するため、隆起帯の重力に注目する。

電離層遅延高次効果のGPS測位に与える影響について
宗包浩志(宇宙測地研究室)

GPS測位において電離層による伝搬遅延の効果は、L1、L2の線形結合を取って補正することが一般的である。しかしながら実際にはこの処理によっても補正しきれない高次項があることが分かっている。本発表ではその性質を概説するとともに、高次項が生み出す測位誤差を見積もる簡便な手法を提案する。

日時:  平成16年12月3日(金) 15時15分~17時00分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

無線LANとICタグの測位への利用
神谷 泉(地理情報解析研究室)

屋内での測位方法として有望な無線LAN測位について、その原理と精度検証実験の結果を紹介する。測量と地図の科学館において、GPSと無線LAN測位を併用した屋内外のシームレス測位の実験を行った結果を紹介する。近年、物流業界を中心にICタグ(RFID)が注目されている。この原理、現状を紹介するとともに、測位への利用を考察する。

日時:  平成16年11月5日(金) 15時30分~16時30分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

干渉SARによる火山地域における地すべり変位の検出
矢来 博司(地殻変動研究室)

東北地方の火山地域を対象として干渉SARによる地すべり変位の検出を試みた。その結果、八甲田山南側の蔦温泉、八幡平東側の松尾鉱山跡など複数の箇所で地表変位によると考えられる位相変化を検出した。検出された変位領域の大きさはkmスケールであり、大規模地すべり地や岩屑なだれ発生地とよく一致する。検出された変位は数ヶ月~数年で数 cm ~ 20cm程度である。講演では変位量の時間変化等についても述べる。

水準測量およびGPS連続観測で見えてきた阿蘇カルデラの上下変動
-長期的沈降と間歇的隆起-
村上 亮(地理地殻活動総括研究官)

1996年-2003年間のGPS上下地殻変動の一次傾斜から上下変動を推定したところ,阿蘇カルデラ内の3点のGPS連続観測点が一様に沈降していることがわかった。沈降は阿蘇カルデラ内で閉じている可能性が高い。一方、壇原(1971)も過去の水準測量結果から阿蘇カルデラの沈降を報告している。阿蘇カルデラは長期間に渡って沈降を続けている可能性が高いが、一方、2003年3月頃から10月頃にかけて間歇的な隆起が観測された。これらのデータから、阿蘇火山のマグマシステムを考察する。

白神山地・二ッ森北麓の地形と植生について
佐藤 浩(地理情報解析研究室)

白神山地は、青森県と秋田県にまたがる、日本海側の多雪地帯に位置する山地である。1993年12月には、原生的なブナ林16,971 haが、日本初の世界自然遺産に登録された。青森県側に延びる主稜線の標高は高いところで約1,200 mであるが、県境方向に伸びる東部では標高800~1,000 mに揃う。白神山地の東部、二ッ森北麓は地すべり地形や雪崩斜面が卓越しているが、9月13~18日、微地形が植生の分布に及ぼす影響を調べることを目的に現地調査を行った。今回は、地形と植生を中心に二ッ森北麓の自然を紹介する。

浅間山火口を航空機SARで観測
大木 章一 (測図部測図技術開発室長)

2004年9月1日以降火山活動が続いている浅間山の火口を噴煙下でも地表の状況を把握することのできる航空機搭載合成開口レーダ(航空機SAR)を用い、火口内部の地形変化の調査を行った。画像判読の結果、火口内やや北東部分で以前くぼ地であった場所に同心円の構造を持つ地形を確認し、気象庁の熱映像とあわせ、マグマが火口底に達したものと推定した。観測前後の経過や、情報量の少ない初期画像を用いた判読について速報する。

GPS観測からみた浅間火山2004年噴火
村上 亮(地理地殻活動総括研究官)

浅間火山では、少なくともGPS観測データが存在する1996年以降、現在まで、海抜下2-3kmの中間的なマグマ溜りに間歇的にマグマが注入されていたことが確認できる。2004年4月頃から始まったマグマの上昇に刺激されて、少量(数10万立方メートル程度と推定される)のマグマがより浅部に移動し、そのほぼ1ヵ月後の9月1日から噴火活動が始まったと考えられる。噴火開始以降は、GPS観測結果には、特段の変化は現れていない.現時点で大量のマグマが移動している可能性はきわめて低い。講演では、GPS観測から推定される、2004年浅間火山噴火の詳細について議論する。

日時:  平成16年10月1日(金) 13時15分~16時30分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

国立天文台VERA小笠原観測局におけるコロケーション観測の報告
眞崎 良光 (宇宙測地研究室)

昨年12月、東京都小笠原村父島の国立天文台VERA小笠原観測局において、同局20mVLBIアンテナ位置(Az,El軸交点位置)を求めるためのコロケーション測量作業を実施した。この作業では同アンテナ位置を1cm以下の精度で決定することが要求されている。解析の結果、今回使用した局所的な測量網における同アンテナの相対位置をmmの精度で決めることができた。
本発表では、これら測量解析結果を報告するとともに、事前準備および現地作業状況についても紹介する予定である。

日時:  平成16年9月3日(金) 13時30分~15時00分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

ニューラルネットワークと最尤法分類を用いた斜面崩壊の危険度評価について
佐藤 浩 (地理情報解析研究室)

山地や都市域周辺の台地や丘陵地では、近年、流動性が高く、長距離を高速で運動する斜面崩壊が頻繁に発生しており、その発生機構を解明するため詳細な地形情報を得ることが求められている。近年、航空レーザ測量によって地形情報が詳細に把握できるようになった。本研究では、写真判読で把握した崩壊跡地を教師データとし、航空レーザ測量データを使って、異なる2つの手法(具体的には、ニューラルネットワークと最尤法分類)で斜面崩壊の危険度を評価した。得られた2つの結果を比較して、どちらの手法がより妥当な結果を導いているか、考察する。

GMTの海岸線・河川データの検証
-GISを利用した国土地理院発行数値地図との比較-
加藤 敏 (宇宙測地研究室)

地球科学分野のデータ(例:リモートセンシングデータ)の空間分解能が向上し、各種地理空間データとの重ね合わせを行う際、拡大表示される機会が増えたため、例えば海岸線の位置ずれが顕在化することがある。このような場合に、データの位置精度の限界を知っておくことは有益である。そこで、地球科学分野で代表的な地図プロットツールであるGMT(Generic Mapping Tools)に含まれている海岸線・河川データについて、ArcGISを用いて国土地理院発行数値地図と比較し、それらの位置精度の検証を行った。

新しい日本の重力ジオイド・モデルJGEOID2004の構築
黒石 裕樹 (宇宙測地研究室)

重力ジオイド・モデルJGEOID2000は、瀬戸内海や北海道の北・南・中央部におけるデータの希薄さや一部の沿岸海域における海上重力データの系統的誤差のため、精度分布が不均質である。そこで、前者に対して新しい重力情報を追加し、後者について人工衛星アルチメトリーによる海域重力場モデルとの混合処理を行い、精度が大いに改善され、その地理分布が全国的に滑らかな新しいモデルJGEOID2004を構築した。

日時:  平成16年7月9日(金) 13時15分~15時00分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

GPSと水準データを用いた関東・伊豆地方のブロック断層モデル
西村 卓也 (地殻変動研究室)

関東から静岡県中部にかけての領域を対象として、ブロック断層モデル(e.g.Hashimoto and Jackson, 1993)を用いて、1996年4月から2000年5月までのGPSデータと1990年代後半に行われた水準測量のデータのモデル化を行った。その結果、伊豆半島をマイクロプレートとして扱い、箱根の北を中心に時計回りに回転させると、現在の地殻変動を説明できることがわかった。 また、相模トラフの固着域は、大正関東地震の震源域より南東に広がっていることや、駿河湾でのすべり欠損速度は相模トラフの半分程度であることが推定される。

日時:  平成16年6月4日(金) 15時30分~17時00分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

標高データ(DEM)を用いた地形解析とその周辺
岩橋 純子 (地理情報解析研究室)

25mグリッドDEM(標高データ)と20万分1地質図のデータを用いた新潟県東頸城地域における第三紀地すべりの地形解析、国土地理院の市販のDEMを利用した自動地形分類手法と土地条件図・火山土地条件図・200万分1地質図・全国地形地盤分類メッシュマップ等各種主題図データの比較など、発表者が過去に行った研究について概要を紹介する。

日時:  平成16年4月27日(火) 13時30分~15時00分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

静岡県内国道1号沿いの最近の上下変動
海津 優 (地理地殻活動研究センター長)

1977年以後の水準測量結果から、焼津付近から三ケ日にかけての地殻上下変動を概観する。
駿河湾からのフィリピン海プレートの沈み込みに伴い、同路線の東半では時間的にほぼ一様な沈降が卓越し、浜名湖北方では、測地的地殻変動研究を行っているものの間で「三ケ日隆起」として知られている累積的隆起傾向が見られる。そのような一般的傾向に、時間的、空間的な「揺らぎ」が重畳して観測されているわけであるが、ここでは、その様相を、簡単な多項式展開により概観してみようというものである。一本の路線ではあるが、かつて昭和50年頃羽田野誠一によりコンパイルされて、この地域のテクトニクスを明瞭に示してくれた国道1号の上下変動は、その後の繰り返し測量により、より豊かな情報をもたらしてくれている。

3次元有限要素法による地殻変動シミュレーション
水藤 尚 (地殻変動研究室)

自己紹介を兼ねて、私がこれまでに行ってきた以下の3つの研究を簡単に紹介する。いずれも3次元有限要素法による地殻変動・余効変動のシミュレーションである。1896年陸羽地震(東北地方内陸)の余効変動、1900年以降の東北日本の地殻変動および1964年アラスカ地震の余効変動シミュレーション。

都市部における測位について(その1)
-特別研究の概要とGPS以外のGNSSについて-
小白井 亮一 (地理情報解析研究室長)

平成14年度から3年間にわたって実施している特別研究「都市再生のための精密三次元空間データ利用技術の開発」の概要と進捗状況、及び初年度に調査したGPS以外のGNSS(ロシアのGLONASS、欧州のGalileo)に関すること(これまでの経緯や最近の動向など)を報告する。

都市部における測位について(その2)
-スターファイアーと無線LANの精度確認実験-
神谷 泉 (地理情報解析研究室)

グローバルDGPS(全世界に分布した基準局からグローバルな誤差モデルを作成するDGPS)技術であるスターファイアーを、ワイドエリアDGPS(広域に分布した基準局から広域的な誤差モデルを作成するDGPS)技術であるオムニスター、従来型のDGPS技術である海上保安庁の中波ビーコン、RTK-GPSと比較した実験を行った。
スターファイアーは、初期化がうまくいけば中波ビーコン以上の精度が得られるが、初期化がうまくいかないと、数時間をかけてゆっくりと精度が向上していく。室内における無線LANを使用した測位と、これとGPSの融合に関する実験を行った。無線LANの測位精度は、同軸ケーブルを用いた理想的な環境で0.27m、障害物がない場所で0.82m、オフィス環境を模した場所で2.31m(2次元測位、67%値)であった。

IVS(国際VLBI事業)第3回総会報告
松坂 茂 (宇宙測地研究室)

IVSの第3回総会が、2月9-11日カナダのオタワで開催された。総会は、IVSを構成する世界各国の組織の研究者・技術者が一堂に会して最新の研究動向や将来計画について情報交換を行うことを目的に2年毎に開催されるIVS最大の会議で、VLBIに関わる諸分野と地球惑星科学の各分野とを橋渡しする学際的議論の場ともなっている。本講演では、今総会のテーマである「今日の結果と明日へのビジョン」に則り、VLBIの今までの成果と今後の見通し、技術的進歩などに関して紹介する。

日時:平成16年3月5日(金) 13時15分~
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

ウェーブレットを用いた2次元データの分解・合成手法の開発とそれを用いた日本周辺の海域重力場・ジオイドのモデル改良
黒石 裕樹 (宇宙測地研究室)

2次元データについて、空間(または時間)領域とスケール(周波数)領域で局在化した信号や誤差を抽出・復元するため、ウェーブレットを用いた手法を開発した。その手法を、日本周辺について、海上重力測定と人工衛星アルチメトリーによる重力場モデルとの混合による重力場・ジオイドのモデル構築に適用し、大いに改善された結果を得た。

2003年7月26日宮城県北部の地震による地殻変動と断層モデル
西村 卓也 (地殻変動研究室)

2003年7月26日7時13分に発生した宮城県北部の地震(M6.4)は、CMT解などによると,ほぼ東西圧縮の逆断層という東北地方では典型的なメカニズムの地震であった。しかし、MJMA5.5の前震から始まった地震活動の推移や、余震のメカニズム解が余震域の南側と北側で異なるなど多くの興味深い一面を持っている。この地震の地殻変動に関しては、GEONETによって最大16cmの水平変位が捉えられたのを始め、干渉SAR、水準測量、GPS繰り返し測量などによって、M6クラスの地震としては異例とも言える豊富なデータが収集されている。 講演では、国土地理院の観測によって明らかになった多種の地殻変動データを解析し、すべてのデータを説明しうる断層モデルの構築を行った結果について報告する。

硫黄島の地殻変動~GPSキャンペーン観測より~
矢来 博司 (地殻変動研究室)

2001年に水蒸気爆発が発生した硫黄島は非常に活発な火山であり、島内2点のGEONET観測点の観測結果から噴火直前から現在まで非常に大きな地殻変動が続いていることがわかっている。国土地理院では、硫黄島の地殻変動をより詳細に明らかにするため、2002年8月より3ヶ月おきにキャンペーン観測を実施しており、これらの観測により得られた地殻変動について報告する。

GPS連続観測による日本列島の上下変動分布とそれから読み取れること
村上 亮 (総括研究官)

2004年1月現在、約1200点という世界有数の規模で実施されている我が国のGPS連続観測網のデータから、テクトニクス、地震メカニズム、火山噴火メカニズムについての画期的な成果が次々と上がっている。しかし、それらの解析は、多くの場合水平変動成分に立脚しており、精度が劣るとされる上下成分については、これまで積極的に用いられることが少なかった。しかし、GPSは本来3次元的な測位手法であり、地学的な現象を解釈する際に上下地殻変動は極めて重要な拘束を与える場合も多い。上下変動についても、可能な限り情報を読み取る努力を払うことが重要であると思われる。このような考えに基づき、1996年以降の上下変動データを解析した結果、相当の信頼性があると判断され、むしろそれを積極的に利用することにより、日本周辺のテクトニクスの新たな理解につながる知見を得る可能性が高いことがわかった。 講演では、GPSの上下変動の信頼度を評価し、得られた上下変動の分布とそれから読み取れる地学的な意義について議論する。

日時:平成16年2月6日(金) 13時15分~
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

ライン勾配データのラスター化と地図作成
水越 博子 (地理情報解析研究室)

現在、地表面から直接,グリッド標高データを得る手段はなく、数値等高線データやランダムなポイント標高データの形で取得された地表面のデータを基に、グリッド標高データが作成される。一般的に、勾配のラスターデータは、これらのグリッド標高データを用いて計算される。また、勾配のラインデータとしては、落水線の線分を用いて計算する手法C-BATM (Contour-Based Automatic Terrain Mapping)が開発されている。今回、このライン勾配データをラスター勾配データへ変換する手法Program RL (Rasterization of Line data)を紹介する。計算地域として鹿児島県屋久島の安房川流域と宮之浦川流域を選び,Program RLを試行した。さらに、同じ数値等高線データを用いて、既存手法によるラスター勾配データも作成し、出力図、ヒストグラム、統計値を用いて、グリッドセルサイズやグリッド点の位置の変化による違いを比較することにより、Program RLの長所や安定性、既存手法の問題点などを検討した。

大気が地球回転に与える影響
(1)月平均気象データによる解析
眞崎 良光 (宇宙測地研究室)

宇宙測地技術の進展とともに、測地解析の随所で地球と宇宙の座標系の関係を記述する地球回転パラメータが必要となっている。大気や海洋が地球回転におよぼす影響については、現在でも研究が続いている問題のひとつである。
今回は解析に着手したばかりであるが、月平均気象データを用いた、大気が地球回転に与える影響に関する計算結果を紹介する。

水準測量の年周変動に関する考察(続報)
今給黎 哲郎 (地殻変動研究室長)

(要旨は省略)

日時:平成16年1月16日(金) 15時15分~17時
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)