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北岳(3,193m)三角点を102年ぶりに一新

概要と経過

 関東地方測量部は、今夏、日本第2の高峰である北岳の三等三角点「白根岳」の復旧測量を行いました。明治37年(1904)7月7日に設置されて以来、102年ぶりに標石を交換するとともに低下改埋(※1)を行い、三角点を一新したものです。
7月7日朝の北岳

7月7日朝の北岳

 北岳の三角点の異常については、平成16年の標高改定作業で確認していましたが、登山するだけでも大変な場所であり、標石運搬や埋設のための掘削も困難が予想されることから、取り扱いが課題となっていました。北岳の標高を改訂したことをきっかけとして、関東地方測量部と地元との交流が深まる中で、平成17年6月から今年の5月までの11ヶ月間にわたり、北岳山麓の芦安山岳館において「伊能図と南アルプスの測量・地図展」を開催しました。これを契機に、「北岳の三角点は山のシンボル」との地元からの復旧を望む声が強まるとともに、南アルプス市及びNPO法人「芦安ファンクラブ(※2)」の全面的な支援を受けられることが具体化し、本復旧測量が実現しました。
 

7月7日(金) 北岳へ登る

 朝7時、登山口の広河原山荘前には、関東地方測量部職員4名、南アルプス市職員2名、芦安ファンクラブ会員13名(内女性2名)の総勢19名と同行する山梨放送カメラマンが集結、簡単な打合せの後、7時30分に大樺沢コースを辿る北岳への登山に出発しました。

 高度を増すごとに、夏草の長が短くなり高山植物が可憐な花を咲かせ、疲れを忘れさせてくれます。雪渓の脇にはショウジョウバカマが咲き、雪で曲がった新緑のダケカンバの中に、時折ミネサクラが満開の花を付けていました。稀少なホテイアツモリソウなども見ることができ、ハクサンイチゲやミヤマキンバイの他に次々と名前が紹介される高山植物に迎えられながら、約6時間で肩の小屋に到着しました。夏とは言え標高3000mは8°Cと寒く、小屋のご主人が差し入れてくれた暖かいみそ汁が疲れを癒してくれました。
雪渓を登り、右又コースへ
雪渓を登り、右又コースへ
北岳固有のキタダケソウ
北岳固有のキタダケソウ
かろうじて立つ旧柱石
かろうじて立つ旧柱石

 休憩の後、7名の選抜隊が明日の段取りのため、霧に包まれた北岳頂上へ向かいました。前もってヘリで運搬し、途中2カ所のコル(※3)にデポ(※4)した三角点柱石と盤石、セメント、砂利砂や水の入ったポリタンク等を確認し、15時すぎに頂上に到着しました。北岳山頂は意外と広く、山の石に支えられ、やせ細った三角点が霧の中に静かに立っていました。選抜隊の役得で、北岳にしかないキタダケソウの咲く斜面に案内していただき、花を写真に納めることができました。

7月8日(土) 天気に恵まれ順調に作業

 6時、深い霧が立ちこめる中、雨具を着て肩の小屋を出発しました。作業は、標石運搬(5名)、資材運搬(9名)、山頂における作業(5名)に分かれて取りかかりました。背負い子に付けられた標石は、ファンクラブの「昔は山の猛者」2名で大半の標高を稼ぎましたが、頂上の近くでは、参加者が代わる代わる交代で担ぎ、盤石は主に女性が担ぎ頂上に到着しました。資材は、山頂に近いコルからピストンで運搬され、山頂の作業班は、三角点の位置を引照点(※5)と鳥居(※6)で確保し、埋設のための掘削を進めました。
背負子の柱石は約60kg
背負子の柱石は約60kg
引照点と鳥居で旧位置を点検
引照点と鳥居で旧位置を点検
三角点周囲を鉄筋で補強
三角点周囲を鉄筋で補強

 薄陽がさすまでに天候が回復し、断続的にブロッケン(※7)現象が現れ、両手を広げてブロッケン現象を楽しみました。つかの間の思わぬ出来事でした。

 天候がさらに回復し、数量が不足していた資材が麓からヘリで運び上げられることとなり、小型のヘリが上昇気流を利用して山頂まで飛来、残りの資材を届けてくれました。お陰で、三角点を保護するための材料は十分に確保され、槽の中でコンクリートが何回にも分けて練られ、標石の周りには自然石が並べられ固められました。
山頂で練られるコンクリート
山頂で練られるコンクリート
小型ヘリが資材を運搬
小型ヘリが資材を運搬

 こうして、参加者のチームワークと奮闘により、11時前に作業はほぼ終了し、用意したA5サイズの説明板が、声高らかに読み上げられ、拍手の中で上面のコンクリートに埋め込まれました。
GPS測量機による観測GPS測量機による観測 102年ぶりに一新した北岳三角点「白根岳」102年ぶりに一新した北岳三角点「白根岳」

 この後、関東地方測量部職員は、GPS測量機をセットし3時間の観測を行い肩の小屋に下山しました。

 夜の交流の場で、旧柱石と盤石を肩の小屋に下ろすことが、登るより大変であったと聞きました。達成感に満ちた杯を酌み交わしながら、これほどまでに三角点にロマンを感じている方々がいることを目の当たりにし、国土地理院を取り巻く多くのファンがいることに思いを致しました。標高3000mに建つ山小屋は、夜遅くまで笑い声が上がり、深い霧に包まれていきました。

今後の課題

 最後になりましたが、今回の取り組みは、南アルプス市及び芦安ファンクラブの皆さんの多大な協力が無くては実現できませんでした。関係各位にはこの場を借りて、厚く御礼申し上げます。

 関東地方測量部は、管内に日本アルプスなどの山岳を抱えています。登山者に愛され、山のシンボルとなっている著名な山岳の三角点の中には、山頂の浸食に伴って露出するなど、異常点となっているものがあります。これらを復旧したいと考えていますが、実行にあたっては様々な困難が立ちはだかっています。今後は、本復旧測量の経験を生かし、地元自治体並びに住民や登山愛好家等との連携を図り、できる限り計画的に復旧を進めて行きたいと考えています。
(関東地方測量部)

用語説明

 ※1低下改埋:三角点を低く埋め直す作業。

 ※2「芦安ファンクラブ」:山梨県芦安地域内外の人々により構成され、南アルプス
              北部の自然環境の保護と活用、この地域の伝統、山岳文
              化等の継承等を活動指針としたボランティア団体。

 ※3コル:山の尾根の低くなった部分(鞍部)。   

 ※4デポ:デポジット(deposit)の略語で、保管の意。

 ※5引照点:点の水平位置を復元するために周辺に設置される目印(目印と点の間の
       長さをmm位で測る)。

 ※6鳥居:水平位置と高さを復元するために作られる工作物。神社の鳥居に似ている
      ことからの呼称。

 ※7ブロッケン現象:陽の光が背後からさしこみ、見る人の影の周りに、虹と似た光
           の輪となって現われる現象。
イラスト(山河)


国土地理院広報 2006年8月

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