国土地理院における航空機SAR研究

Observation and Research on Airborne SAR

測図部  小荒井衛・茂木公一・渡辺信之・岡谷隆基・山田陽子・松尾馨
Topographic Department Mamoru KOARAI, Kouichi MOTEKI, Nobuyuki WATANABE,
Takaki OKATANI, Youko YAMADA, Kaoru MATSUO

はじめに

 災害の発生時には、被災状況を一刻も早く把握することが重要である。しかし、豪雨災害の場合には雲などによって視界がさえぎられることが多く、火山噴火などの場合には噴煙によって地上から得られる情報は大幅に減少する。特に、光学センサを用いた観測においては、これらの状況下での地表情報の取得はかなり制限される。その点において、合成開口レーダ(SAR)はマイクロ波を用いた能動的センサという特性を生かし、雲や噴煙などの悪天候下だけでなく昼夜を問わず観測が可能であるという利点を有している。
 このセンサは主にJERS,ERS,RADARSATなどの人工衛星に搭載された地球を観測しているが、観測周期・解像度等の問題から、必ずしも緊急時に適切な情報が迅速に得られないという問題がある。この様な視点で見た場合、航空機による観測は、衛星による観測と比べて、迅速性・解像度の面できわめて有利である。一方で、今後更に解像度が高いSAR衛星の打ち上げが順次予定されており、将来的に解像度等が向上した際にどの程度災害状況を把握でき、地形図作成にどの程度利用可能かを検討することも重要である。
 国土地理院では、これらの問題についての調査研究を行うため、平成8年度~平成9年度にかけて航空機搭載型SAR(以下、航空機SARと呼ぶ)を整備した。航空機SARの観測の概念を図―1に示す。平成10年度に本装置による初めての観測を行い、平成11年度からは、建設省の総合技術開発プロジェクト「先端技術を活用した国土管理技術の開発」(平成11~14年度:以下、国土管理総プロと略す)、及び「災害等に対応した人工衛星利用技術に関する研究」(平成11~13年度:以下、災害衛星総プロと略す)の一環として研究を行っている。
 国土管理総プロは、建設省の施策が「国土建設から国土マネジメントへ」に転換してきたことに伴い、国土全体に対する面的で広域かつ定常的な観測・監視を行い、国土管理に必要な諸情報を一体的、包括的に収集、管理、分析し、迅速な情報提供を実現する等の機能を持ち、国土の状況を常時監視し、管理者が適切に対応できる「国土管理技術」を確立する必要性から、スタートしたのもである。この中で、航空機SARも国土管理に必要な先端技術として位置付けられており、「SARデータの取得・処理技術の開発」、「SARデータの利用技術の開発」の2課題が、航空機SARに関する研究として設定されている。
 本論文では、これまで国土地理院で行ってきた航空機SARによる観測の概要を紹介すると共に、国土管理総プロ及び災害衛星総プロで行ってきた航空機SAR研究の内、地図作成分野と関わりの深い、DEMの作成とその精度評価、SAR画像による地物の判読性の評価を中心に、研究の中間成果を紹介する。