インターネットを介した地理情報所在情報の流通について

Distribution of geographical information directory data through the Internet
-Movements in U. S. and Europe, and activities of G. S. I.-

地図部 西城祐輝・田中大和・村上真幸
Cartographic Department Yuuki SAIJO, Yamato TANAKA, Masaki MURAKAMI


本文[PDF:450KB]

要旨

 インターネット上で求められている様々な地理的・属地的な情報の円滑な流通には,それらの所在情報の流通が不可欠であり,そのための研究・運用がすでに始められている。米国においては,国家地理空間データ基盤プロジェクトにより,政府,州,地方自治体における地理データの重複したデータ整備の排除,及び地理データの有効的かつ効率的な管理の推進のため,政府機関の保有する地理空間データの所在情報をインターネットを通じて提供しようとしている。一方,欧州においては,MEGRIN Groupの地理データ記述ディレクトリプロジェクトにより,欧州内で流通する地理的データに関する情報の提供を行おうとしている。プロトタイプシステムが運用されており,インターネットによりアクセス可能である。国土地理院においては,平成6年度から科学技術庁の省際ネットワーク研究の枠組みの中で地理情報ディレクトリーデータベースの構築に関する研究を行っている。本報告では,インターネットを介した地理情報所在情報の流通に関する欧米の動向と地理院の取り組みについて紹介する。
    目  次

主な図
  図-1 Internet for Research in Japan (10k)
  図-2 省際研究情報ネットワークの接続形態(17k)
  図-3 Overview of the National Geospatial Data Clearinghouse.(164k)

1.はじめに
2.アメリカ合衆国
  2.1  個別組織での取り組み
  2.2  国家規模構想とNSDI
  2.3  NSDIの組織と構成
  2.4  メタデータの標準化
3.ヨーロッパ
  3.1  MEGRINとGDDD
  3.2  GDDDプロトタイプの構成
4.国土地理院
  4.1  省際ネットワーク
  4.2  GIDDの構築に関する研究
  4.3  平成6年度の成果
  4.4  平成7年度以降の取り組み
5.おわりに
参考アドレス
参考文献

1.はじめに

 インターネットとは,地域的なネットワークどうしを結合した巨大なネットワークである。インターネ ットが登場した当時はアメリカ合衆国の国防が目的であったが,自由な情報流通を実現できる環境であることが評価されると世界各国に急速に広まった。日本でも学術関係を中心に利用されていたが,パーソナルコンピュータ上からのアクセス環境が整ってきたことに従い一般にも関心がひろまりつつある。
 インターネットでは様々な情報が広く求められており,測量・地図・画像・文献などの様々な地理的・属地的な情報の中にも,学術的・行政的に広く有効活用できるようインターネット上で公開すべきものが数多くあると考えられる。特に,インターネットのような広大な環境では必要な情報の所在をいかに把握するかが重要であり,そのための所在情報の流通の研究・運用がすでに欧米で行われている。
 国土地理院では,平成6年度より試行的に整備されている省際ネットワークを通じてインターネットへの高速なアクセスが可能になった( 図-1(10k)図-2(17k))。これに付随して,地理的な情報の所在情報を省際ネットワークを介して提供するための地理情報ディレクトリデータベースの構築に関する研究を始めている。

2.アメリカ合衆国

2.1 個別組織での取り組み  インターネットを生んだ米国での地理情報所在情報の流通は,国家規模での取り組みに先行した個別の組織が,その研究の成果を活発に公開していた。
 個別の組織での取り組みの典型的な例に,米国地質調査所 (U. S. Geological Survey:USGS)の開発したGLIS (Global Land Information System)がある。GLISは,公開されている地理情 報について,それぞれの所在情報・利用解説・個別目録を持っている。ブラウズグラフィックなどを含むテキスト及びグラフィックのインターフェースを用いてこれらの情報を提供し,最終的に地理情報の提供者にアクセスできるようなサービスが提供されている。
 GLISは地理情報の利用者に配慮したサービスの提供とともに,USGS以外の地理情報の所有者にも情報提供の場を準備して,結果的に地理情報の流通を統一・促進することを目標としていた。しかし,GLISで必要とされる情報の量は大きく,その作成が負担になることなどから,一部の関係機関を除いて情報提供は行われなかった。GLIS等の例は,地理情報のインターネットとの適応性と,その所在情報のより広範な流通を強力に促進する必要性とを示すことになった。 2.2 国家規模構想とNSDI  初期の国家規模での取り組みには,1990年10月のOMB (The Office of Management and Budget)文書A-16によるものがある。 OMB文書A-16の中で地理情報所在情報の流通に関連するものは,国家測地参照システム(The National Geodetic Reference System)の整備,内務省長官の下への連邦地理データ委員会(The Federal Geographic Data Committee:FGDC)の設置,環境の整備と組織間の調整等である。このOMB文書A-16の内容は情報の流通自体に関する具体的な内容がなかったため,あまり強い促進力となることはなかった。
 このような状況で,1993年になって地理情報所在情報の流通のために国家規模での明確な指示が出された。1993年1月に誕生したクリントン-ゴア政権は国家情報基盤(National Information Infrastructure:NII)の整備を基本政策として打ち出し,さらに1993年2月にはゴア副大統領が世界情報基盤 (Global Information Infrastructure:GII)構想を提唱した。これらを背景として,1993年4月11日,「COORDINATING GEOGRAPHIC DATA ACQUISITION AND ACCESS :THE NATIONAL SPATIAL DATA INFRASTRUCTURE(地理データの構築と利用の調整:国家地理空間データ基盤)」と題する大統領令を発布したのである。
 この国家地理空間データ基盤(NSDI)とは,国家的な規模において,政府・州・地方の自治体における地理データの重複したデータ整備の排除および有効的かつ効率的な管理の推進を行うための基盤のことである。大統領令は,交通・通信・緊急指令・農業・環境・その他の地理データを利用する各分野をサポートすることを目的に,その整備を義務付けるものである。 2.3 NSDIの組織と構成  NSDIでは,OMB文書A-16で設置されたにFGDCに対して,NSDIに関する米国連邦政府の開発を調整指導する役割を与えている。FGDCは,NSDIの開発に関係する政府機関・各省と,開発や実行に必要な専門家・企業・研究者で構成される。NSDI は,国家地理空間データクリアリングハウス (National Geospatial Data Clearinghouse)の設立,地理情報の一般公開のた めの指導,標準化作業,初期の実行計画の策定等をFGDCの新たな業務として定めている。
 国家地理空間データクリアリングハウスとは,電子的につながった地理空間データ利用のためのネットワークのことで,分散した複数の情報提供組織と設備を総称したものである( 図-3(164k))。大統領令では,発令から6ヶ月以内にFGDCを通 じてクリアリングハウスを設立することを定めている。NSDI関係各機関には,クリアリングハウスのネットワークを通じて,FGDCによって標準化されたメタデータ(データの要約の記述)の整備・公開を行うことが定められている。新規の地理空間データについては発令から9ヶ月以内に実施に移すこと,既存の地理空間データについては計画を発令から1年以内に策定することになっている。
 具体的には,USGS内のマシンにFGDCのホームページが設置されていて,1995年6月の時点でここから米国内の政府7省9機関,27州,50大学,9企業,4研究機関,米国外の21機関,50大学などがクリアリングハウスのメンバーとしてつながっている。これらは所有する地理情報を独自のホームページで検索して入手できるようになっているとともに,地理情報所在情報を全体で検索することもできる。後者のみをクリアリングハウスからのアクセスの方法として,FGDCのホームページに直接つながっていない情報提供機関も存在する。 2.4 メタデータの標準化  クリアリングハウスで公開されるメタデータには標準化が義務付けられているが,メタデータ標準の作成はFGDCによって行われた。作成はNSDIが発布される以前の1990年10月に開始されている。これはメタデータ標準の作成がOMB文書A-16 によって開始されたためである。現在のメタデータ標準は,3回のリビューの後,1994年6月に認可されている。
 FGDCはメタデータ標準の作成にあたって,
 1)地理空間データへの組織内での投資を支援すること
 2)組織の保持するデータの情報をデータカタログ・クリアリングハウス・仲介者等に供給すること
 3)外部の情報源から変換したデータを受け取る際の処理・変換に必要な情報を供給すること
の3つを主な利用目的としている。また,FGDCはメタデータ標準に含まれる情報を選別するにあたって,メタデータが
 1)有効性:ある場所について存在するデータを判別するのに必要な情報
 2)利用の適正:特定の需要にあったデータを判別するのに必要な情報
 3)アクセス:指定されたデータを取得するのに必要な情報
 4)変換:データを処理して利用するのに必要な情報
の4つの役割を果たすことを基準にしている。
 メタデータ標準では,その情報は全てテキストで構成されている。これは,メタデータの作成・検索・利用のいずれにおいても,テキストを使用することが最も作業を容易にし,かつ利用環境への依存をなくすことができるためである。特にインターネット上で全文検索を行うためのWAIS (Wide Area Information Servers)のシステムを用いると,容易に検索環境が 構築できる。
 メタデータ標準の大まかな構成は次のようになっている。
 1)同定情報:データセットについての基本情報
 2)データ品質情報:データセットの品質の一般的評価
 3)空間データ構成情報:データセットの空間情報の表現の構成
 4)空間参照情報:データセットの座標を表すための座標系や表現方法
 5)実体/属性情報:データセットの形式・細目・値の一覧等の情報の内容に関する情報
 6)配布情報:データセットの配布者やデータセットを取得するための情報
 7)メタデータ参照情報:メタデータとその管理者の情報
これらの情報は個々のデータセットごとに作成されることになる。

3.ヨーロッパ

3.1 MEGRINとGDDD  ヨーロッパ各国での地理情報所在情報の流通の取り組みは,その国や個別の組織によって様々である。しかし,地理情報所在情報の流通に関しても欧州統合の流れは例外ではなく,欧州17ヶ国(脚注)の地図作成政府機関によってMEGRIN (Multipurpose European Ground Related Information Network)Groupを構成し て,1993年6月より地理データ記述ディレクトリ(Geographical Data Description Directory:GDDD)のプロジェクトを実施している。
 GDDDの目的は,MEGRIN Groupの構成機関などの地図作成政府機関を主な対象として,利用可能なデジタル地図の製品の情報を供給することである。
 GDDDプロジェクトは2つの段階に分かれている。最初の段階はデータベースのプロトタイプを構築して試験的運用を行うものである。後の段階では,試験的運用の結果を参考にして,完全な仕様のEuropean Geographical Directory Service を構築・運用する。試験的運用では,まず地理データの記述方法の定義を行っている。各機関は,所有する地理データについての記述をこれにしたがって作成し,これをMEGRIN Service Centreに集める。この集められた記述をデータとしてデータベースのプロトタイプを構築し,テストサービスとその操作手順を提供してプロトタイプシステムをテストしている。 3.2 GDDDプロトタイプの構成  GDDDのプロトタイプのデータベースは,1995年6月の段階で,ドイツのフランクフルトのIfAG(Insti‐tut fur Angewandte Geodasie)において運営されている。telnetを用いたテキストベースのサービスとして提供されており( 図-4(71k)),基本的にはMEGRIN Groupの構成機関を対象にしたものだが,MEGRIN Group以外からの利用も可能である。
 GDDDのプロトタイプで扱われている地理データは18ヶ国の31機関におよぶが,その記述はすべてMEGRIN Service Centreに集めて管理されるため ,MEGRIN Service Centreが扱うデータは大変大きなものになる。GDDDのプロトタイプではこれを軽減するために,地理データを記述する単位として同じ種類の地理データをまとめたデータセットを用いている。これは,例えば「数値地図 10000」のような地理データに対して,「日本橋」のような一つ一つの地理データの記述をするのではなく,「数値地図10000」の全体を一つのデータセットとして扱い,これに対して一回だけ記述を行うというものである。データセットに含まれる一つ一つの地理データのリストは各機関で管理され,GDDDそのものには含まれないことになる。
 データセットの記述は3階層で構成され,その記述方法の大まかな構成は次のようになっている。
 1)データセット情報     データセットの識別     キーワード     所有者の識別     データセットの概要     準拠座標     データセットの現況     配布  2)オブジェクトクラス     オブジェクトクラス情報     データの内容     品質     量     属性  3)属性情報     属性の役割     他のデータセットとの結合 1995年6月の段階では,地理的データの記述方法の定義の外部への詳しい内容の公開はされていない。

4.国土地理院

4.1 省際ネットワーク

 省際ネットワークは,平成6年度より科学技術振興調整費により試行的に整備されているもので,研究機関の実際の利用を通じて発生する利用状況データ,問題点等を把握・分析するとともに,他のネットワークとの相互接続における経路制御技術,ネットワークの安全性確保等,整備・運用に係る基盤技術の調査研究を行い,将来の省際ネットワークの本格的整備に必要な知識・技術,データ,ソフトウェア等の蓄積を図ることを目的とするものである。
 現在の省際ネットワークはインターネットに接続されており,省際ネットワークに接続されている機器は直接インターネットに接続されている機器と同等の環境にあるといってもよい。省際ネットワークに参加している国土地理院でも同様で,インターネットへの非常に高速なアクセスが可能な状態になっている。
 省際ネットワークに関する研究として,科学技術庁科学技術振興調整費により,平成6年度から48ヶ所の国立研究機関等が参加して実施している「研究情報整備・省際ネットワーク推進制度」における研究が行われている。国土地理院では,このうちの地球観測データのデータベース化に関する研究について,省際ネットワークを介して地理的・属地的情報の所在情報を網羅的に提供するための地理情報ディレクトリデータベースを構築するために必要な研究を行っている。

4.2 GIDDの構築に関する研究

 地理情報ディレクトリデータベース (GIDD:Geographical Information Directory Database)の構築に関する研究は 平成6年度から平成10年度の期間で行われ,このうち平成6年度から平成8年度が第1期になっている。これは地図技術開発室,情報管理課,地理第一課で共同して実施している。
 研究項目の主な内容は
 1)データベースシステム構築のための資料収集
 2)データベースシステム設計・試作
 3)既存図・空中写真等の索引情報数値化
 4)データベースシステム運用試験
である。

4.3 平成6年度の成果

 平成6年度は上記の1)について次のような資料収集を行った。

4.3.1 地理的・属地的情報に関する資料収集

 国等の諸機関の保有する地図,空中写真や調査報告書等及び数値化されている(あるいは,近い将来数値化されようとしている)地理的な情報の中から,学術的・行政的に利用される価値のある情報について,その内容,形式,提供の方法等についての調査を行った。この調査は同時に,将来の所在情報の収集を行う場合の手法についても参考となるものである。
 国内外でこれまで行われたいくつかの情報所在調査を参考にした上で調査票を作成し,国等の諸機関に対してそれぞれの保有する地理的・属地的な情報の所在に関してヒアリング調査を行った。この結果,9省庁2団体からの有効な回答が得られ,これらをあわせて調査票の評価を行い,データベースシステム設計等の指針とした。

4.3.2 ディレクトリデータの記述形式に関する調査検討

 地理的・属地的情報の精度,適用範囲等に照らして情報の二次利用が的確に行えるようにするため,情報源情報としてのディレクトリデータに記述すべき項目,記述形式及び記述例について,技術的な調査検討を行った。上記の第2章及び第3章の内容は,そのほとんどが本調査によって得られたものであり,今後のデータベースシステム構築の際の有効な参考事例とした。

4.3.3 データベースシステムに関する資料収集

 データベースシステムの構築に向け,オブジェクト指向データベースシステムをはじめとした次世代のデータベースシステムに関する資料,データベースシステムに取り込んだ地理情報を省際ネットワークを介して効果的に運用するために必要なツールとしてのWWW(World Wide Web)サーバやデータ検索の操作性を向上するためのGUI(Graphical User Interface)等についての資料を収集した。これらはデータベースシステム試作の際の参考とした。

4.4 平成7年度以降の取り組み

 データベースシステム構築のための資料収集については平成6年度の取り組みから継続して行っている。平成7年度の初期の取り組みで
 1)院内の地理的・属地的情報
 2)NSDI及びGDDDの具体的な情報
 3)WWWサーバとデータベースとの接続手法
などの情報を新たに収集しているところである。
 さらに平成7年度にパイロットデータベースシステムを構築することとした。これは,データベースに市販のソフトウェアを利用し,これまでの調査で利用可能なデータをパイロットデータとして,地理情報所在情報の管理・提供を行うものである。平成7年度初期の段階での構想は,所在情報は作成・管理をする点を考えて欧州を参考にしたデータセット単位のものとし,全文検索やグラフィックインターフェイスでの検索を行えるようにするという方向にある。また,地理情報の細かい検索を可能にするために,分散した地理情報提供元との検索情報のやり取りを行えるようにし,測量成果閲覧システム等のデータベースと連携するという構想も持っている。

5.おわりに

 欧米の取り組みは,米国は広範囲の地理情報所在情報を統一した方法で流通させており,一方欧州は各 国の形式に対応しやすいコンパクトな所在情報の流通を研究しているという違いをみせている。この違いは所在情報の作成や管理に大きな影響を与えているので,我が国で取り組む上でもよく考慮しなければならない。地理情報所在情報の流通はまた,地理情報標準や地理情報交換標準といった他の標準化作業との関連も強いので,ISO等他の組織の取り組みも参考にしていかなければならない。これらをふまえた上で,地理情報所在情報の流通の研究を行い,地理情報を利用するための環境のいっそうの充実を推し進めるつもりである。

参考アドレス

IM-net Network Operation Center.
  http://www.imnet.ad.jp/
Global Land Information System-GLIS
  http://www.usgs.gov/fact-sheets/glis/GLIS.html
National Spatial Data Infrastructure
  http://fgdc.er.usgs.gov/nsdi2.html
Federal Geographic Data Committee(FGDC)
  http://fgdc.er.usgs.gov/fgdc.html
USGS Node of National Geospatial Data Clearinghouse
  http://nsdi.usgs.gov/nsdi/index.html
Institut fur Angewandte Geodasie Frankfurt/M.
  http://www.potsdam.ifag.de/frankfurt/ifag-frankfurt.html
MEGRIN Service Centre
  telnet://megrinav19.ifag.de(username:MEGRIN;passward:MEGRIN)

参 考 文 献

建設省国土地理院「多省庁間における地理情報等のデータ利用技術に関する調査研究報告書」1995年3月

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