人工衛星画像処理技術の地図作成等への応用に関する研究

The Study on the Applicability of Satellite Image Processing Technology to Topographic Mapping

測図部  政春尋志・勝田啓介

Topographic Department Hiroshi MASAHARU, Keisuke KATSUTA,

下地恒明・田村栄一 (現在 国土庁)・大塚健二 ((株)北海道データサービス)

Tsuneaki SHIMOJIE, Eiichi TAMURA, Kenji OTSUKA



本文[PDF:1,556KB]

要旨

 SPOT衛星によるステレオマッチングから得られた標高データをもとに正射衛星画像図を作成し,標高データ及び正射画像の地物の位置が地図作成の精度に十分であるか評価した。
 同じく,JERS-1衛星のステレオマッチングから得られた標高データを幾何補正した画像に重ねてみることで,精度を検証した。
 また,衛星画像図作成作業の効率化のため,作業法の確立とディジタルデータ渡しによる印刷を行った。  
    目  次

主な図

1.はじめに
2.作業地区及び画像データ
  2.1  八ヶ岳地区
  2.2  箱根地区
  2.3  プーケット地区
  2.4  国土数値情報
3.作業方法
  3.1  SPOTのステレオマッチング
  3.2  JERS-1 OPSのステレオマッチング
  3.3  等高線の作成
  3.4  画像の幾何補正
  3.5  JERS-1 OPS画像の色ずれの補正
  3.6  フィルター
  3.7  国土数値情報の重ね合わせ
4.精度の検証
  4.1  SPOTステレオマッチングによる標高データ
  4.2  SPOT正射画像の位置
  4.3  JERS-1 OPSステレオマッチングによる標高データ
5.考察
参考文献

1.はじめに

 1985年に高解像度の人工衛星SPOTが打ち上げられ,地図作成に人工衛星を使える可能性がでてきた。そこで平成4年度には,SPOT衛星を用いた地図作成を島原地区で試みた。作成手法は,SPOTのステレオペア画像を解析図化機にかける方法である。このときは,精度の検証により10万分の1程度の地図作成が可能であることが検証できた。しかし,図化にはかなりの時間と熟練技術を要するため,より簡易な手法での地図作成が必要になってきた。そこで平成6年度はSPOTのステレオマッチングを行い,標高データ及び正射衛星画像を作成し,各々について精度評価を行った。
 1992年の2月に,日本でもJERS-1と呼ばれる高解像度の人工衛星が打ち上げられた。解像度は18m×24mとSPOTには若干劣るが,前方視と直下視を持つために,同一軌道上のステレオペアが得られるというSPOTには無いステレオペアの同時性の特徴がある。このステレオ画像からステレオマッチングにより標高データを作成し,幾何補正したJERS-1衛星画像に等高線を重ね合わせた衛星 画像図を作成した。
 今までに国土地理院で作られた画像図の多くはLANDSATによるもので,主に日本国内のものばかりであったが,今回はLANDSATによる海外の衛星画像図を作成した。
 以上のように,本研究において,SPOT, JERS-1,LANDSATの3 種類の衛星画像図を作成した。

2.作業地区及び画像データ

2.1 八ヶ岳地区

 八ヶ岳地区はSPOTのステレオペアから正射画像図を作成した。地区の選定に当っては,SPOTのステレオペアがある地域は限定され,ペアの両方で雲が少ない地域は極めて少なく,また今回は,標高データ検証のため,数値地図50mメッシュ標高(以下,50mメッシュという)が刊行されている地域から選ぶ必要があったが,それらの条件を満たしている地域ということで八ヶ岳地区と決定した。
 正射画像作成のため,高解像度のパンクロモードの使用により単色画像となった。画像版を緑色にしたのは,幾つかの色で試作し比較検討した結果,黒の等高線と重ね合わせた場合,画像図が鮮明に見えると判断したからである。地物・注記版を半透明にしたのは,国土数値情報の地物と衛星画像とを比べるためで,オレンジ色は緑色の補色であることから使用した。なお, 表-1(68k)に衛星画像データの諸元を示す。

2.2 箱根地区

 箱根地区は,JERS-1衛星OPSセンサーのステレオペアから等高線を作成し,幾何補正したマルチバンドの画像と重ねた。国土地理院において,JRES-1衛星 OPS画像を持っているのは関東地区のみと作成地区が限られ,既に平成4年度作業で筑波地区を行っているので,今回はそれ以外の地区ということで箱根地区とした。
 地物・注記版は,最初は八ヶ岳地区と同じように半透明にする予定だったが, JERS-1の解像度では,画像上で高速道路等の地物の判読が困難な ため半透明にして重ねても意味がなかった。そこで,見やすいように国土数値情報の地物を白抜きとした。 表-2(90k)に画像データの諸元を示す。

2.3 プーケット地区

 プーケット地区は,LANDSAT画像を幾何補正したのみで地物や等高線を重ねてはいない。
 画像印刷図左上隅に,タイ全図を表示してプーケット島の位置がわかるようにした。
 表-3(56k)に画像データの諸元を示す。

2.4 国土数値情報

 国土数値情報は,2万5千分の1地形図に表示されている道路や鉄道など国土の基本的な情報の位置と属性が数値情報になっているものであるが,位置精度については概ね10万分の1地形図程度の精度を保持している。
 八ヶ岳と箱根の画像図では,画像情報が実際の地物と同じ位置にあるかどうかを確認するために,国土数値情報を重ねて検証した。国土数値情報のうち用いたデータは,道路,鉄道,行政界である。道路は,高速道路及び国道と都道府県道の一部,鉄道は全て,行政界は都道府県界のみを表示した。

3.作業方法

3.1 SPOTのステレオマッチング

 八ヶ岳地区ではSPOT画像のステレオペアを用いて,ステレオマッチングを行った。
 ステレオマッチングに用いたソフトウェアはErdas OrthoMAXである。
 まず最初に,SPOTのパンクロ画像を入力し,GCPを2万5千分の1地形図1面につき1点取得した後,ステレオマッチングによって標高データを作成する。そして,できあがった標高データをもとにして正射衛星画像を作成した。

3.2 JERS-1 OPSのステレオマッチング

 箱根地区はJERS-1 OPS画像のステレオマッチングを行った。用 いたソフトウェアは平成4年度の「ディジタル画像を用いた地形計測手法に関する研究作業」で作成されたものである。これは,OPSデータのCCTのヘッダに記述されている人工衛星の位置・姿勢のデータを全面的に利用するもので,ステレオペア間の対応点を1点のみ入力して,ステレオマッチングを行い標高値を計測するものである。画像間の対応点の探索には面積相関法を採用し,相関の尺度には残差逐次検定法(SSDA法)を用いた。

3.3 等高線の作成

 SPOT及びJERS-1 OPSのいずれの場合も,地図に表現するためステレオマッチングで作成された標高データから等高線を作らなくてはならない。等高線の作成にはGNUPLOTというフリーソフトを用いた。このソフトは,メッシュデータから等高線を作成することができ,その後できあがった等高線を各種フォーマットに変換出力が可能である。ここでは,等高線をPost Scriptフォーマットで出力し,Image AlchemyというソフトウェアでTIFFファイルに変換して衛星画像と重ねた。
 等高線の間隔は,10万分の1地形図の場合は本来50m間隔であるが,等高線が密になりすぎるため今回の画像図では100m間隔とし,計曲線は500m間隔で線号は主曲線の2倍とした。

3.4 画像の幾何補正

 箱根地区とプーケット地区の画像については幾何補正処理を行った。JERS-1とLANDSATは直下視画像を持つため,幾何補正だけで位置合わせが可能である。これに対して八ヶ岳地区の画像のSPOTはポインティングを行っているので,幾何補正だけでは誤差が大きくなってしまい,地物の位置等に影響がでてしまう。そこで,SPOTについては正射画像を作成した。幾何補正にあたっては,幾何補正後の画像をリサンプリングする必要がないように,幾何補正後の画像の大きさに合わせた係数を設定した。
 箱根地区の幾何補正には,Erdas Imagine ver 8.1の幾何補正コマンドを利用した。画像上にGCPを登録し,そのGCPの緯度経度を入力した後補正式を求めるもので,今回の補正式は3次式とした。GCPの取得は,SPOTと同様2万5千分の1地形図1面につき1点とし,トータル数は箱根地区内に海の部分が含まれていたため,合計15点となった。
 プーケット地区の幾何補正に関しても,箱根地区と同様にErdasを用いた。補正のために取得したGCPは13点で,プーケット地区の5万分の1地形図から座標を取得した。補正式は箱根地区と同様に3次式とした。

3.5 JERS-1 OPS画像の色ずれの補正

 箱根地区のJERS-1 OPSの画像は,バンドによって位置がずれていることがわかった。このような場合はバンドごとに幾何補正をする必要があるが,幾何補正後に分ったため,幾何補正後の画像について補正を行った。
 補正は,明らかに同じ地物と思われるものを画像上で数ヶ所選び,その位置のずれから全体的な画像のずれを求めた。箱根地区の場合,バンド1の画像を基準にすると,バンド2の画像は北方向に4ピクセル,バンド3の画像は,北方向に7ピクセル,東方向に6ピクセルそれぞれずれていた。そこで,マルチバンドの画像をバンドごとに分解して,位置を補正した後再び合成するようにした。これによって,画像の位置ずれはほとんど解決することができた。

3.6 フィルター

 画像処理として,エッジフィルターをかけて,道路や鉄道のような線状のものを強調した。フィルターをかけるソフトウェアとしては,Photoshop 3.0Jを用い た。八ヶ岳地区とプーケット地区に関しては弱いエッジフィルターをかけ,箱根地区に関しては強いエッジフィルターをかけた。これは,箱根地区はJERS-1 OPS の画像であるためにコントラストが悪く,判読がしにくいためである。その他の地区の画像では逆に,強いフィルターをかけると元画像からかけ離れすぎてしまうので弱いフィルターとした。

3.7 国土数値情報の重ね合わせ

 八ヶ岳地区の道路と鉄道は,半透明にして画像上に重ねた。これによって,元の画像と国土数値情報がどのくらいのずれがあるかがわかる。箱根地区に関しても当初八ヶ岳地区と同様にする計画であったが,JERS-1 OPSの解 像度が低いために道路や鉄道が判読しにくいため,白抜きとすることにした。位置合わせは,衛星画像図上の道路及び鉄道が,国土数値情報の道路や鉄道の線からはみ出していなければ位置があっていると判断した。
 画像を重ねるに当っては,ベクトルデータになっている国土数値情報をラスターデータに変換しなくてはならない。そのための変換には,Post Scriptフォーマットをラスター変換することのできるImage Alchemyというソフトウェアを用いた。まず,国土数値情報フォーマットから,今回作成したデータコンバートのソフトを使用して,べクトル形式であるPost Scriptフォーマットに変換した。次に,Post ScriptフォーマットをImage Alchemyを用いてTIFFフォーマットにする。そして,同フォーマット上で画像処理済みの衛星画像と重ねる。
 国土数値情報のデータは,2次メッシュごとに作成されているが,2次メッシュ間で接合がとれていなかったり,国道や都道府県道の属性が間違っているものがある等多少のエラーがあり,修正を行った。また,ハンドディジタイズ手法のため,曲線部において補間点数が乏しい箇所がある。そこで,ラスター変換をする前にベクトル上で若干の編集を行った。編集には,Computer Vision社のCADDS  4を用いた。これは,国土基本図の作成に用いられているソフトであるが,データのフォーマット変換をしなくてはならないので,今回Post ScriptからCADDS とその逆のデータコンバーターソフトを作成した。
 国土数値情報の高速道路等のデータにおける画像図上での表示方法は,以下の通りである。
 
区分
線号
線種
高速道路 0.6mm 実線
国道 0.4mm 実線
一般道 0.2mm 実線
都道府県界 0.6mm 一点鎖線
新幹線 0.6mm 破線
一般鉄道 0.4mm 破線

4.精度の検証

4.1 SPOTステレオマッチングによる標高データ

 SPOTのステレオマッチングから求められた標高データを,50mメッシュと比較した。図-1(115k) がステレオマッチングで求められた標高による等高線出力図で, 図-2(114k) が50mメッシュによる等高線出力図である。200m間隔の等高線図では,両者の違いがほとんどわからない。そこで,2つの標高差をとって等高線図にしたのが図-6(101k) である。このことから,誤差のほとんどが30m以内に収まることがわかる。30mを超える誤差が出た箇所は,谷になっている部分で,画像の歪みが大きいためステレオマッチングの精度が落ちてしまったと考えられる。
 30m以内にほとんど収まるということは,50mの等高線を引くことが可能であり,10万分の1地形図の等高線を作成することができる。

4.2 SPOT正射画像の位置

 SPOTの正射画像を国土数値情報と重ねてみることで精度の検証を行った。 図 -3(251k)は,正射画像に半透明の国土数値情報を重ねた図を拡大したものである。わかりやすい高速道路の部分で比較してみと,概ね道路の幅に収まっている。道路の幅は図上0.6mmであるから,その誤差は概ね図上0.3mm以内である。誤差が図上0.3mm以内であれば,地形図作成には十分な精度であり,この場合10万分の1地形図作成に使用可能であると考えられる。

4.3 JERS-1 OPSステレオマッチングによる標高データ

 SPOTと同様にJERS-1 OPSのステレオマッチングから求められた 標高を,50mメッシュと比較した。 図-4(112k) がステレオマッチングで求めた標高に よる等高線出力図で, 図-5(101k) が50mメッシュによる等高線出力図である。ステレ オマッチングから求められた標高値において,海や湖沼の部分では,誤差が著しく大きくなっている。これは,水部においては衛星画像のステレオペア間に相関のとれる特徴がないためである。このため今回の標高データの比較には水部は含まないこととした。
 両者の差をとって等高線図にしたのが 図-7(103k)である。水部で100mを超える誤差 になっているが,そのほかの部分はほとんど50m以内の誤差になっている。誤差の大きい部分は主に山間部である。平成4年度の筑波地区の場合は,筑波山のみであったためこの現象が目立たなかったが,今回の箱根地区の場合は,山と谷が交互にある起伏の激しい場所が多数存在するため,画像の歪み及びノイズが大きくなり誤差が大きくなったと考えられる。
 また,JERS-1のステレオ画像は,前方視画像が直下視画像と比 べて,撮影距離の違いにより走査と直行する方向の解像度がやや低下することも誤差の要因の一つといえる。
 図-7より標高の誤差が概ね50m以内であることから,100mの等高線を引くことができると考えられる。従って,20万分の1の地勢図の等高線を引くことが可能である。

5.考察

SPOTのステレオマッチングから正射画像を作り,それをもとにして地形図を作ることができるかを検討 してきた。その結果,標高データと位置データについては10万分の1地形図を作成できる精度であることがわかった。今後は,正射衛星画像の道路や鉄道等を画面上でベクトルデータとして取得することにより,地図を作成することができると考えられる。
 JERS-1 OPSのステレオマッチングの場合は,標高データの精度は20万分の1地勢図が作成可能であるが,画像の解像度が低く,ダイナミックレンジが狭いため地物の判読は,高速道路と新幹線程度しかできない。これだけでは地形図の作成には不十分であるから,地図作成にはより高分解能かつダイナミックレンジの広い画像が必要であるといえる。

参考文献

政春尋志・田村栄一ほか(1995):人工衛星画像処理技術の地図作成等への応用に関する研究,調査研究  年報
国土地理院(1993):「ディジタル画像を用いた地形計測手法に関する研究作業」報告書
大塚 力(1993):JERS-1ステレオ画像を用いた三次元計測に関する研究,測図部技術報告 第3号,pp1~5

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