最終更新日:2018年12月27日

国土地理院時報(2018,130集)要旨

Establishment of New Geoid Model for islands in Japan“GSIGEO2011(Ver.2)”
 
測地部   小板橋勝・小島秀基・根本悟・宮原伐折羅・平岡喜文・矢萩智裕
 
【要 旨】
 国土地理院では,衛星測位を用いた測量業務の効率化(スマート・サーベイ・プロジェクト)の一環として,GNSS測量により3級水準測量に相当する標高の決定を可能とするため,高精度なジオイド・モデルの構築を進めてきた(後藤ほか,2013).電子基準点や水準点の上でGNSS測量から得られた楕円体高から水準測量による標高を差し引くことで得られるデータを整備し,平成25年4月に西日本地域について新たなジオイド・モデルに更新した「日本のジオイド2011+2000」を公開し(兒玉ほか,2013),平成26年4月には残りの東日本地域も更新した「日本のジオイド2011」(Ver.1)を公開した(兒玉ほか,2014).
 ジオイド・モデルは,GNSS測量で得られる楕円体高から標高を算出するために用いられるため,測量成果の標高及び楕円体高と整合している必要がある.通常,標高は日本水準原点を起点とした水準測量によって決定されるが,直接水準測量が実施できない離島では,測量法に基づき標高の基準を個別に定めている.また,ジオイド・モデル作成に使用できる楕円体高が整備されている基準点の点数も各島でそれぞれ異なっているため,島ごとに最適なジオイド・モデルを作成する上で個別に補正方法を検討する必要がある.そのような事情により,「日本のジオイド2011」(Ver.1)では多くの離島のジオイド・モデルが更新されていなかった.
 今回,未更新であった離島のジオイド・モデルについて4種類のジオイド補正モデルを用意し,島ごとに最適なモデルを適用することで,測地成果2011と標準偏差2cm以下で整合したジオイド・モデルを構築し,「日本のジオイド2011」(Ver.1)で公開されている地域と合わせて,「日本のジオイド2011」(Ver.2)として平成28年4月1日に公開した.本稿ではその詳細について報告する.
 
 
Release of Active Fault Map in 1:25,000, “KUMAMOTO revised version” and “ASO”
 
応用地理部   植田摩耶・中澤尚・安喰靖・齋藤俊信・飯田誠・山中崇希
 
【要 旨】
 国土地理院応用地理部は,平成 28 年 (2016年)熊本地震に伴って明瞭な地震断層が出現したことを受け,その区域を中心に活断層の位置・形状について調査し,調査結果を 1:25,000 活断層図「熊本 改訂版」及び「阿蘇」にとりまとめ,平成29年10 月に国土地理院の地理院地図から公開した.本稿では,両図葉に記載された地震断層と,地震発生後の最新の知見に基づき記載された新たな活断層の概要について報告する.
 
 
Geomagnetic Charts of Japan for the epoch 2015.0
 
測地部   高橋伸也・菅原安宏・松尾健一・矢萩智裕
測地観測センター   阿部聡
 
【要 旨】
 国土地理院では,日本全国を網羅する地形図を作成している.地形図はデジタル化が進んでシームレスとなり,GNSS測位を用いることで地形図上における自分の場所を容易に知ることが可能となった.また,方角は方位磁針や磁気センサーを用いることで,磁石の指す北である「磁北」を基準とした自分の向きが分かる.ところが,これだけでは地形図上における自分の向きを正確に知ることができない.これは「磁北」と地形図の北である「真北」がずれていることが原因である.地形図上における自分の向きを正確に知るには,「磁北」と「真北」のずれ(偏角)を補正しなければならない.様々な情報が電子化された現代社会においても偏角は依然として重要な地理空間情報の一つであり,時間的及び空間的に変化する偏角情報を鮮度良く社会に提供するためには地磁気測量に基づいた正確な偏角を更新し続ける必要がある.
 地磁気とは,地球が持つ固有の磁場のことであり,これは時間的にも空間的にも常に変化している.国土地理院では,日本全国の磁場分布とその永年変化を把握するため,1950年頃から地磁気測量を実施してきた.その成果として,日本全国の磁場分布を図に示した「磁気図」を定期的に更新している.2016年12月1日には,最新の磁気図として,2015年1月1日0時(協定世界時)における磁場の分布を表した「磁気図2015.0年値」を作成し,公表した.
 本稿では,磁気図2015.0年値の作成手法や精度評価について報告する.
 
 
Volcanic Deformation of Atosanupuri Volcanic Complex in the Kussharo Caldera, Japan, from 1993 to 2016 Revealed by JERS-1, ALOS, and ALOS-2 Radar Interferometry
 
地理地殻活動研究センター   藤原智・矢来博司・小林知勝
測地部   飛田幹男
北海道大学   村上亮
京都大学   西村卓也
 
【要 旨】
 1994年頃,北海道東部の屈斜路湖東岸にあるアトサヌプリ火山群において直径十数kmほどの範囲が20cm以上膨張し,その後徐々に元に戻る地殻変動が人工衛星を利用した干渉合成開口レーダーによって見いだされた.その後,後継衛星を用い,20年以上にわたる火山性地殻変動の推移を求めた.
 アトサヌプリ火山群では活発な噴気が続いているものの,噴火等の活動はこの時期に観測されていない.しかしながら,地殻変動からは,地下数kmの深さの場所にマグマと考えられる火山性の熱流体が貫入することで火山体が膨張したあと,ゆっくりと収縮が継続したことが見出され,人知れず静かに進む火山活動の把握には,長期にわたる人工衛星からの観測が有効であることが確かめられた.
 
 
Validity Verification of the Seismic Ground Disaster Assessment System (SGDAS)
 
地理地殻活動研究センター   中埜貴元・大野裕幸
 
【要 旨】
 国土地理院では,地震発生後概ね15分以内に,斜面崩壊,地すべり,液状化といった地盤災害が発生した可能性を,震度と地形等の地理的特性との関係から自動的に予測・推計するシステム(SGDAS)を開発し(神谷ほか,2014),国土地理院内で運用している.この推計結果は,地震直後においてほとんど現地の被害情報が得られていない段階で,どこでどの程度の地盤災害が発生した可能性があるのかを把握する手がかりとなり,国土交通省の災害対策本部に提供されるとともに,国土地理院における空中写真撮影計画の立案等にも利用されている.
 SGDASによる推計結果は,過去の地震事例において一定水準の妥当性が確認されているが(神谷,2013),2016年4月16日1時25分頃に発生した熊本地方を震源とする地震の実被害例を用いてその妥当性を再検証した.その結果,斜面災害予測は実際の土砂崩壊発生箇所を概ねカバーできていたが,土砂崩壊が実際にはほとんど発生しなかった地域を過剰に予測したケースがあり,実際の災害対応での利用を想定すると予測アルゴリズムまたは脆弱な地質の評価への寄与方法を改良する必要があることが分かった.また,液状化予測においては見逃しが多発したが,予測アルゴリズム自体は実際の発生傾向と調和的であり,予測に使用する地形分類情報の高分解能化・細分化が必要であることが分かった.今後のSGDASの利活用の方向性も含めて,改良の必要性等の議論が必要と考える.
 
 
Technical Development for Applicable Area Expansion of GNSS Precise Positioning
 
測地観測センター   多田直洋・大中泰彦・宮川康平・酒井和紀・古屋智秋・鎌苅裕紀・山尾裕美・檜山洋平・畑中雄樹・高橋伸也・菅原安宏・松尾健一・矢萩智裕
 
【要 旨】
 上空が建物等で遮られる都市部ビル街等で,GPSや準天頂衛星システム「みちびき」等のGNSSを用いて測位を行う際,上空を遮る建物等により反射・回折した品質の悪い信号(マルチパス)の影響を受け,測位精度が悪化してしまう.そこで国土地理院では,上空視界が開けておらず高精度衛星測位が困難な地域において,その適用範囲を拡大することを目的に,上空視界情報の利用及び測位信号の品質検定によりマルチパスの影響を取り除く手法の開発に取り組んできた.開発した手法は「上空写真法」,「ドップラー法」,「3次元建物法」及び「ドップラー速度法」である.
開発した各手法を神戸市内でのGNSS定点観測により検証した結果,上空視界が一定以上開けている場所において,得られる座標の精度が向上することを確認した.中でも上空視界情報を利用してマスクを作成し,衛星の選択を行う上空写真法と3次元建物法が効果的であった.マスクに求められる精度については,マスクにずれを与えて適用し,その効果が確保できるずれの範囲を評価した結果,全方位角平均で仰角のずれが15°程度以下ならば,概ねマスクの適用による測位結果の改善が期待できることがわかった.また,リアルタイム測位で実用性が高いと考えられた3次元建物法について,3次元建物情報からマスクを作成するのに必要な位置座標の推定を組み込むよう手法の改良を実施した.改良を踏まえ神戸市内においてリアルタイム測位を模した検証を行い,衛星可視率55%以上でマルチパス軽減手法の適用により測位結果は安定して改善した.これら評価結果から各手法の長所・短所を整理し,測位環境に応じた手法の適用指針としてまとめた.
 
 
Attempts to Make MLIT Hazard Map Portal Site More Useful
 
応用地理部   藤井夢佳・上芝卓也・吉松直貴・大角光司
 
【要 旨】
  近年,豪雨や台風等による自然災害が激甚化し,人的・物的被害が毎年のように発生している. これらの自然災害から居住者や滞在者の命を守るためには,居住者や滞在者に地域の災害リスクを認識してもらい,いざという時に適切な避難行動をとってもらうことが必要である.
  居住者や滞在者に適切に避難してもらうには,あらかじめ居住地や滞在地で想定される災害リスクをハザードマップ等により把握し,災害時にとるべき避難行動を認識しておいてもらうことが重要である. 国土地理院では,居住者や滞在者に対して災害リスク情報を分かりやすく提供するとともに,全国の市町村が災害種別ごとに作成しているハザードマップを簡単に検索できるようにするため,国土交通省水管理・国土保全局と協力して「国土交通省ハザードマップポータルサイト」を平成19年4月から運用している.
  この国土交通省ハザードマップポータルサイトの利便性をさらに高めるため,重ねるハザードマップの災害リスク情報を充実させ,その情報を分かりやすく居住者や滞在者に提供するとともに,市町村が作成するハザードマップへのリンク先を修正するなどの改良を加えた.本稿ではその内容を報告する.
 
 
A Prototype System for InSAR time series analysis
 
地理地殻活動研究センター   小林知勝・森下遊・山田晋也
 
【要 旨】
 地盤変動の時間的推移を高い計測精度と空間解像度で検出することを目的として,干渉SAR時系列解析システムのプロトタイプを開発した.本研究開発では,干渉SAR時系列解析の計測精度を高めるために,植生,対流圏,電離圏の影響による誤差を低減するための技術開発を行い,システムに実装した.本システムの特徴として,1)Phase Linking法を組み込んだ位相最適化処理による植生の影響の低減,2)数値気象モデルを利用した対流圏起因の誤差の低減,3)Range Split-Spectrum法等による電離圏起因の誤差の低減,等が主に挙げられる.さらに本システムを実データに適用して,特に植生と電離圏の影響低減に関する各開発技術の効果を検証した.植生の影響低減に関しては,位相最適化処理によりPS点の少ない山間部においても,従来の手法より高い空間密度で計測点を取得することができ,局所変動の詳細な空間分布の検出に資することが期待される.電離圏の影響低減に関しては,Range Split-Spectrum法の適用による誤差低減効果が高く,従来用いられてきた時空間フィルタに依存せずに適切に変動を抽出できることが示された.本機能は,LバンドSARを利用したSAR干渉処理において,広域変動の観測に不可欠な技術となると期待される.また,本システムで計測される変動速度の精度を検証するために水準測量データとの比較を実施した.その結果,両者は高い相関を示し本事例の場合,水準測量との最大較差は6mm/yrであった.本システムの開発により,ALOS-2や2020年度打上げ予定の先進レーダ衛星(ALOS-4)のLバンドSARデータを用いた地盤変動の時間推移把握が高度化されることが期待される.
 
 

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