国土地理院時報(2009,118集)要旨

小特集 I : GPS連続観測システム(GEONET)の新しい戦略

Development and Validation of GEONET New Analysis Strategy (Version 4)
測地観測センター 中川弘之・豊福隆史・小谷京湖・宮原伐折羅・岩下知真子・川元智司
地理地殻活動研究センター 畑中雄樹・宗包浩志・石本正芳
国土交通省大臣官房 湯通堂亨
測地部 石倉信広・菅原安広
【要 旨】
 国土地理院が運用するGPS連続観測システム(GEONET)は,我が国の地殻変動監視の基盤的な観測網として平成8年の運用開始以来,地殻変動の検出において大きな成果を上げてきた.これまでの成果から,GEONETの解析結果は地殻変動の監視に必要となる精度を満たしていることが示されてきたが,一方で,平成16年から運用が開始された第3版の解析戦略には,いくつかの課題があることも明らかになってきた.
 一つ目の課題は,大気に大きな不均質がある場合,これに起因した系統的な誤差が測位解に生じることである.このような誤差は,解析の際に大気遅延の勾配を推定することで大きく軽減されることが指摘されているが,第3版の解析戦略では,解析ソフトウエア(BerneseVer4.2)の機能による制約もあって,大気遅延勾配の推定は行っていない.
大きな課題の二つ目としては,準拠座標系の不整合が上げられる.国際GNSS事業(IGS)は,ITRF2005の公開に合わせて,2006年11月よりGPS衛星の軌道暦を初めとするIGSの成果をITRF2005(IGS05)に準拠したものに切り替えた.IGS05は,衛星と観測局のアンテナ位相特性モデルに絶対モデルを用いて構築された座標系であるため,同時に相対モデルから絶対モデルへの切り替えも行われた.しかし,第3版のGEONETでは,ITRF2000と相対モデルを採用しているため,使用するモデルとの間で不整合が生じている.
 上記の課題を初めとした諸課題を解決し,さらに安定した地殻変動監視を行うために,国土地理院では,平成18年よりGEONETの新しい解析戦略(第4版)の開発を行ってきた(畑中ほか,2007;畑中ほか,2008).
 解析戦略第4版では,これまでの解析方針の基本的な考え方を継承しつつ,諸課題を解決するために,解析ソフトウエアBerneseをバージョン5.0に更新するとともに,[1]大気遅延勾配の推定,[2]アンテナの絶対位相特性モデルの採用,[3]座標系のITRF2005への変更,[4]解析固定点(電子基準点「つくば1」)における座標の取り扱いの変更,[5]電離層遅延高次項の補正等の導入を行った.
 1996年4月以降の過去のGPS観測データを再解析した結果から,新しい解析戦略では,大気遅延勾配の推定により,停滞前線・台風等の大規模な大気の不均質に起因する座標値の系統的な誤差が大きく軽減されること,解析ソフトウエアの更新やアンテナ位相モデルの変更により,年周変動やばらつきが軽減されることなどが確認され,従来の解析戦略よりも安定した解が得られることが確認された.
 これらの結果を踏まえ,平成21年4月1日よりGEONETの定常解析を解析戦略第4版による解析に切り替え,正式に運用を開始した.
  本文[PDF:2,098KB]

Development and Evaluation of the Antenna Phase Center Models for GPS-Based Control Stations
測地観測センター 豊福隆史・岩下知真子
地理地殻活動研究センター 畑中雄樹
国土交通省大臣官房 湯通堂 亨
【要 旨】
 2006年11月5日のIGS精密軌道暦の座標系変更と同時に,暦算出に使用されるアンテナ位相特性モデルが相対モデルから絶対モデルに変更された.また,国土地理院では同年8月より新しいGEONET定常解析戦略(第4版)の構築作業を開始した.この2つの大きな情勢を受け,GEONETで採用しているアンテナと架台の組み合わせに対する絶対位相特性モデルの構築およびその評価を行ったので報告する.
  本文[PDF:1,955KB]
On an Estimation Method of GEONET Fixed Point Coordinates
測地観測センター 小谷京湖・吉田賢司
地理地殻活動研究センター 畑中雄樹・宗包浩志
【要 旨】
 GPS連続観測システム(GEONET)の新たな解析戦略第4版で用いるつくばの固定点の座標値を,従来のモデル値から,広域解析により取り付けた値に変更し,従来のGEONET解析の座標値に見られた見かけ上下変動を軽減した.IGSよりアンテナ絶対位相特性モデルを用いた暦が提供されているGPS1400週以降では,解析地域をアジア太平洋地域に限り,提供されている暦を強く拘束した上で固定点座標値を推定し,それ以前は,全世界のIGS観測局とGEONET観測局を併せてグローバル解析を行い,暦と座標を同時推定する.GPS1400週をはさんだ解析の整合性について検討した結果,一部の期間で水平方向に3-4mm,上下方向に4-5mm程度のずれが見られるものの,日々の解析結果の揺らぎと同程度であり,両者が十分に整合することを確認した.
  本文[PDF:1,999KB]
A Correction Method to Artificial Displacements on GEONET Coordinate Time Series
測地観測センター 岩下知真子・梅沢 武・川元智司・野神 憩
地理地殻活動研究センター 畑中雄樹
測地部 石倉信広
【要 旨】
 GPS連続観測システム(GEONET)の定常解析結果を用いた地殻変動の監視にとって,実際の地殻変動ではない,GPS観測局のメンテナンス等人為的要因によって生じる座標値のとび(オフセット)は,障害となるノイズである.地殻変動を的確に把握するためにはこれらのオフセットを適切に推定し,補正することが必要である.
 そこで,補正すべきオフセットと本当の地殻変動のように補正してはならないオフセットの区別を整理するとともに,補正すべきオフセットの補正量を解析結果の時系列データまたは水準測量による傾斜量測定から補正する手法について説明する.
  本文[PDF:1,265KB]
Crustal Movement Reevaluated from Solutions of GEONET New Analysis Strategy (Ver.4)
測地観測センター 宮原伐折羅・野神 憩・梅沢 武・岩下知真子・川元智司
【要 旨】
 国土地理院は,GPS連続観測システム(GEONET)のさらなる高度化・高精度化を目的として,2009年4月から,新しい解析戦略(第4版)の運用を開始した.新しい解析戦略(第4版)では,座標値に見られた様々な誤差が軽減されることにより,より詳細な地殻変動の把握が期待される.そこで,新しい解析戦略の運用開始に先立って,解析戦略の変更に伴い座標値に生じる差が,地殻変動監視においてどのような影響を及ぼすのか,第3版と新しい第4版の解析結果を比較することで検証した.比較には,過去の地震・火山活動に伴う地殻変動を用いた.また,解析戦略(第3版)で地殻変動監視の大きな障害として報告されていた大気の不均質による誤差(雨貝・石本,2007)が,大気遅延勾配推定の導入により大きく改善された事例が確認されたため,これを報告する.
  本文[PDF:2,280KB]

小特集 II : 電子国土基本図の整備

測図部長 稲葉和雄
【要 旨】
 国土地理院では,平成21年度から,我が国の基本的な地理空間情報の整備を,今までの2万5千分1地形図をベースとしたものから,デジタル情報である,電子国土基本図に移行します.
 本小特集では,電子国土基本図のうち主として地図情報について,全体の枠組みを構築した国土地理院技術協議会の地理空間情報体系分科会での検討内容,それを受けての事業展開と技術的事項について,関連情報も含めて報告します.また,オルソ画像についても,概要を報告します.
  本文[PDF:1,175KB]
A New Concept on Provision of National Geospatial Information
測図部 村上広史
【要 旨】
 国土地理院は,改正測量法及び地理空間情報活用推進基本法の趣旨を踏まえ,これまでの2万5千分1地形図を中心とした基本図体系からデジタルデータを中心とした新しい体系に移行することとした.その中核をなすのが基盤地図情報と整合した電子国土基本図である.電子国土基本図の整備は,迅速な更新及びインターネット優先の提供により,電子国土の整備が大きく前進し,我が国における地理空間情報の活用が飛躍的に発展することが期待される.
  本文[PDF:1,047KB]
Report of Discussion on National Geospatial Information
測図部 田村栄一
企画部 河瀬和重
地理空間情報部 田中大和
【要 旨】
 インターネットの普及により,コンピュータ上の新鮮なデジタル地図を多くの人が利用するとともに,GPSによって精度よく測位ができる時代になった.
 今般,平成19年5月の測量法改正,及び地理空間情報活用推進基本法(以下,「基本法」という.)の制定を踏まえ,国土地理院内に設置された地理空間情報体系分科会において,同法の趣旨に沿った我が国の基本図データ体系に関する検討を行った結果,デジタル時代の地理空間情報体系を構築すべきという結論になり,分科会の報告書として取りまとめた.
 報告書では,デジタルデータを主体とした地図の基本測量成果のあり方,国土地形基盤を中心とする新たな地理空間情報の整備,既存の地理空間情報体系の整理等についての提言がまとめられた.
なお,本稿の国土地形基盤等の用語については,6.で説明する.
  本文[PDF:1,992KB]
Outline of Digital Japan Basic Map (Map Information)
測図部 石関隆幸・田村栄一
【要 旨】
 平成20年に閣議決定された地理空間情報活用推進基本計画を踏まえ,国は,その整備する地理空間情報について,基盤地図情報に整合させて整備するとともに,インターネットを通じて共通に利用することができる環境を整える必要がある.
 基盤地図情報は,地理空間情報活用推進基本法(以下,「基本法」という.)で「位置の基準」と規定されており,道路,建物等の地物に対して基準となる座標値を与えるものである.しかしながら,これだけでは,植生,崖,岩,構造物等の地貌や土地の状況を表す地形情報を知ることができない.
 そこで国土地理院では,基盤地図情報を位置の基準として,これと整合するように地形,構造物等の国土管理等に必要な情報を統合した「電子国土基本図(地図情報)」(以下,「地図情報」という.)を構築・整備し,新たなデジタル時代の基本図と位置づけることとした.
 ここでは,地図情報の概要について紹介する.
  本文[PDF:1,390KB]
Digital Japan Basic Map (Ortho Image)
測図部 山後公二
【要 旨】
 国土地理院では,国土の適切な管理,保全,利用のため,空中写真の周期撮影を実施している.空中写真撮影のデジタル化により,オルソ画像(地図と重ね合わせ可能な画像)の作成が容易に行われるようになった.オルソ画像は,座標を持った画像であることから,地理情報システムの背景や解析のための情報として幅広く利用されることが期待される.そのため,国土を表す際の基準となるオルソ画像を「電子国土基本図(オルソ画像)」として整備を行う.また,オルソ画像は,基盤地図情報の作成に有効に活用されるとともに,地理空間情報の活用推進に寄与することが期待される.
  本文[PDF:1,851KB]
Database for Digital Japan Basic Map (Map Information)
測図部 藤村英範・大野裕幸
【要 旨】
 国土地理院が整備する「電子国土基本図(地図情報)」(以下,「地図情報」という.)は,縮尺レベル25000以上の精度を備え全国を覆うベクトルデータである.2万5千分1地形図に替わる新たな基本図として,即時修正・定期修正などの更新が行われ,その成果は電子国土Webシステムや紙媒体を通じて提供される.
 地図情報の前身である地形図ベクトルデータは,リレーショナルデータベースにより管理されてきたが,データの抽出や複製が遅い,データベース保守やソフトウェア更新に人的・金銭的コストが掛かる,データ形式の変更に対して柔軟性が高くないなどの問題があった.
 そこで国土地理院では,地図情報のデータベースとして,これらの問題を解決するために再設計した,電子国土Webシステムで用いられているデータベースと同じ経緯度30秒区画単位・プレインテキスト形式・ファイルベースのシステムを採用した.これにより,低コスト・柔軟・高速かつ電子国土Webシステムや電子国土基本図(オルソ画像)との親和性の高いデータベースを実現している.
  本文[PDF:1,031KB]
Data Conversion to Digital Japan Basic Map (Map Information)
測図部 水田良幸・原田知明・石関隆幸・田村栄一
【要 旨】
 国土地理院では,地理空間情報活用推進基本法で「位置の基準」と規定された基盤地図情報に,植生,崖,岩,構造物等の地貌や土地の状況を表す地形情報を加え,「電子国土基本図(地図情報)」(以下,「地図情報」という.)を構築・整備することとなった.地図情報は,国土管理等に必要な情報を統合した新たな基本図として位置づけられ,国土地理院では,平成21年度から地図情報のデータ整備を開始した.
  本文[PDF:1,740KB]
Basic Information Survey
測図部 石井 武
【要 旨】
 平成19年に,国土地理院技術協議会の下に設置された地理空間情報体系分科会による「新しい時代に対応した地理空間情報体系の構築に向けた検討」により,国の基本図が2万5千分1地形図(以下,「地形図」という.)から電子国土基本図(地図情報)(以下,「地図情報」という.)へと変更することとなった.それに伴い,基本情報調査の枠組みの抜本的な見直しが必要となった.本稿では,今後の基本情報調査の基幹である,地図情報等の即時修正のための変化情報の収集と修正資料等の収集,及び統計データに関する変化情報の収集・管理を行うことを目的とした面積調査,地名情報調査,登山道調査,公共建物調査等について報告する.
  本文[PDF:2,132KB]
Map Specification of Digital Japan Basic Map (Map Information)
測図部 伊東欣英・干川弘之・石関隆幸・田村栄一・野寺智則
【要 旨】
 平成20年6月,国土地理院技術協議会に設けられた地理空間情報体系分科会は,地理空間情報活用推進基本計画を踏まえ,国及び地方公共団体の協力に基づき地理空間情報を整備する方針等,新たな地理空間情報体系の構築ビジョンを決定し,今後,ベクトルデータ形式の「電子国土基本図(地図情報)」(以下,「地図情報」という.)を新たな基本図として位置づけ,位置の基準である基盤地図情報と整合を図り整備することとした.
 本稿では,新たな基本図について,従来でいう図式に該当する取得基準及び表示基準(以下,「新図式」という.)について,作成の基本コンセプト,検討経緯,取得する項目,その内容等を述べる.
  本文[PDF:2,397KB]
Making of Topographical Map from Digital Japan Basic Map (Map Information)
測図部 斎藤 仁・松岡史晃
【要 旨】
 2万5千分1地形図(以下,「地形図」という.)は,平成14年度からベクトル型原データの地図として管理されてきたが,平成20年6月の地理空間情報体系分科会の報告に基づき,平成21年度から地形図に代わる電子国土基本図(地図情報)(以下,「地図情報」という.)の整備を開始することとなった.
 地形図は,これまでの紙地図ユーザの利便性や,コンピュータの使用が困難なユーザを考慮し,地図情報を修正情報とするラスタ形式の地形図として更新を継続していくため,新図式及び修正編集作業要領の検討,さらに編集ソフトのカスタマイズを実施したので,その概要について報告する.
  本文[PDF:1,764KB]
Accommodation of Digital Japan Web System to Digital Japan Basic Map (Map Information)
地理空間情報部 橘 悠希子・鈴木福義・中峰正義・島田信也・飯田 洋
【要 旨】
 国土地理院では,基盤地図情報に植生や地形情報,構造物等の情報を加え,国土管理のための新たな基本図である「電子国土基本図(地図情報)」(以下,「地図情報」という.)を構築・整備することになった.この地図情報を電子国土Webシステムの背景地図として広く一般の閲覧に供するため,背景地図データの作成ツールを開発するとともに,地図情報に対応するための電子国土Webシステムプラグイン及び触地図原稿作成システムの改良を行った.
本文[PDF:1,763KB]