第2章 基本測量・公共測量等の在り方

1 基本測量

(1) 基本測量事業

 1)現状と問題点
 国土地理院は、すべての測量の基礎となる基本測量事業を実施するとともに、この事業を基礎として測量行政、研究開発及び国際協力を行っている。
 基本測量事業は、1)我が国の各種測量に地球上の正確な位置と高さを与える国家基準点体系(三角点、水準点等)を整備し、維持管理するための基準点測量、2)基準点測量を継続的に行うことにより、地殻の動きをとらえる地殻変動観測、3)国土の現況及びそれらの自然的、人為的変化を明らかにする地理情報の整備、4)国や地方公共団体の行政から国民一般の利用まで広く用いられる2万5千分の1地形図等基本図の作成等をその内容としている。
 a.国家行政の基礎的事業
 国土地理院が実施している基準点測量や基本図等の作成に係る測量は、すべての測量の基礎とされ、国土に関する最も基礎的かつ科学的なデータとなるものである。測量法では、このような測量を基本測量と定義している。
 基本測量の成果である基準点情報や基本図等は、国土の基本的な地理情報として国・地方公共団体の行政においても利用されているほか、一般に公開・提供され利用されている。
 なお、これらの基本的な地理情報は、国家の責務である領土の明示、国の安全確保、地震その他の災害の防止、国の危機管理等の用にも利用されている。また、これらの基本測量事業は、一元的にかつ国際的連携のもとに実施される必要がある。そのため、このような国土の基本的な地理情報の整備・管理は、国家行政の基礎的事業であり、諸外国においても国の機関により遂行されている。
 b.基本測量の非採算性
 基本測量は、すべての測量の基礎であり、その成果は、国民の諸活動において広汎に利用される外部効果の極めて高い事業である。このため、基本図や基準点情報等国土の基本的な地理情報は、全国あらゆる地域において整備されなければならない。すなわち、現時点において需要が少ない地域であっても、基本図等の整備を行い、これらを供給しなければならない。
 また、基本測量には、多額の費用を必要とするが、その成果が広く国民生活に利用されることによって、国民経済的な効果がその費用を大幅に上回るものである。したがって、基本図等の利用者に費用の多くの部分を負担させ、これによって利用を減らすことは、国民経済的には得策ではない。すなわち、基本図等は、広く一般に利用されるべきものであることから、無償ないしは低廉な価格で提供されるべきものであり、基本測量は、採算性による業務展開にはなじまない。
 c.国家基準点体系
 我が国の測量の位置基準(国家基準点体系)は、水平位置の基準となる三角点及び高さの基準となる水準点からなる。これらの基準点の位置は、我が国独自の測地座標系(日本測地系)を用いて表示されている。
 これらの基準点は、国土地理院が整備する2万5千分の1地形図など、国の基本図の基礎になっているほか、地方公共団体の作成する各種の地図、ダムや道路建設などの公共土木工事のための測量、不動産登記行政における土地の面積の測量等にその基準を与えている。また、繰り返し土地を測量することにより、地殻変動をとらえることが可能である。
 しかしながら、我が国の国家基準点体系については、次のような問題点が指摘されている。
・国際化時代への対応
 日本測地系の基礎となっている測量原点の位置は、人工衛星による地球全体の観測等から決定された世界測地系における位置と比べると、水平方向で約450メートル異なっている。
 GPS等グローバルな測量技術の普及もあって、約60か国で構成される国際水路機関等いくつかの国際機関では地理的な位置の表示を統一するため、世界測地系の採用を加盟国に勧告しており、我が国も対応をせまられている。
・基準点網のひずみ
 測量誤差や地殻変動等の影響により、日本測地系の水平位置を現在の測量結果と比べると、東京から見て北海道の位置が今より約9メートル東へ、九州の位置が今より約4メートル北へずれることが判明している。

2)今後の基本測量事業の在り方

 今後の基本測量事業は、次の方向で推進する。

 a.国土の基本的な地理情報の整備・管理は、国家行政の基礎的事業であり、引き続き国の責任において実施される必要がある。
 b.国土の基本的な地理情報は、情報インフラとして国民生活に不可欠なものであり、広く一般に利用されるべきものであることから、無償ないしは低廉な価格で提供される必要がある。
 c.現行の国家基準点体系が有する問題点は、今後さらに顕在化していくものと予想され、早急に解決する必要がある。そのため、世界測地系を採用し、国際性のある高精度な国家基準点体系の再構築を行うべきである。
 d.地籍調査・水路測量などの国土やその周辺水域の実態を明らかにする基本的な測量については、基本測量と密接な関連があることから、これらを総合的、一体的に実施する必要がある。

(2) 基本測量成果の公開・流通

 1)現状と問題点
 基本測量成果の公開・流通に関する現状と問題点は、次のとおりである。
 a.閲覧・謄抄本交付
 基本測量の測量成果である三角点、水準点等の基準点情報や2万5千分の1地形図等の基本図は、国土の基本的な地理情報として、国民生活に不可欠なものであり、すべての測量の基礎となるものであることから、測量法に基づき公開が義務づけられている。また、測量成果を得る中間段階で作成した測量記録も同様に公開しなければならないこととされている。
 このため、測量法は、測量成果等の公開の方法として閲覧・謄抄本交付制度を定めている。測量成果等の閲覧は無料であるが、謄抄本交付については、実費を勘案した手数料を納めなければならない。
 測量成果等のディジタル化の進展に伴い、今後これらのディジタル地理情報をインターネット等を通じて国民一般にリアルタイムで提供することが求められている。
 b.地図等の刊行
 測量法では、建設大臣は基本測量成果のうち、地図その他必要と認めるものを刊行しなければならないとされており、現在、2万5千分の1地形図、5万分の1地形図等の紙地図のほか、フロッピーディスク、CD-ROMによる数値地図、ファクシミリ地図及び空中写真が刊行されている。これらの多様化した刊行物については、より簡易迅速に入手できるようにすることが利用者から強く求められている。
 地図等の刊行は、原版作成までを国土地理院が実施し、原版からの複製・印刷等の業務は、(財)日本地図センターに委託しており、ごく一部のものについてのみ、国土地理院が原版作成から複製・印刷までを自ら行っている。
地図の定価は、建設大臣が定めることとされ、その構成は、(財)日本地図センターが国有財産(地図の原版)を使用することにより国庫に納入する著作権使用料相当額、印刷等に要する費用、販売に要する費用及び一般管理費、流通段階の費用である販売手数料及び送料からなっている。
 c.複製及び使用
 基本測量の測量成果は、国民の共有財産であり、これを国民一般の利用に供するにあたっては、その利用の秩序を確保し、適正公平な利用を図らなければならない。このため測量成果のうち、地図その他の図表、成果表、写真又は成果を記録した文書を複製しようとする者は、国土地理院長の承認を得なければならない。なお、そのまま複製してもっぱら営利の目的で販売するものについては、承認してはならないとされている。
 また、基本測量の測量成果を使用して測量(国土地理院の地図を使用して別種の地図を作成するような場合を含む。)を実施する者は、使用する基本測量成果が実施しようとする測量に適切なものであるか否かを確かめるために、あらかじめ国土地理院長の承認を得なければならない。
 なお、別種の地図の作成について使用承認を受けた者からは、営利目的であっても著作権使用料を徴収していない。
 基本測量成果の複製及び使用の手続きについては、申請者からこれらの申請手続きの煩雑さが指摘されている。

 2) 今後の基本測量成果の公開・流通の在り方

 国土の基本的な地理情報は、国や地方公共団体の行政目的のみならず、産業界・社会においても広く利用される情報インフラとして重要な役割を担うものである。
 基本測量成果の公開・流通については、高度で多様な地理情報が、誰でも、簡易迅速に、無償ないしは低廉な価格で利用できることを基本に、次のような考え方で進めるべきである。
 a.測量成果の公開・流通に当たっては、国土の基本的な地理情報を簡易迅速に利用できる仕組みの整備や刊行体制の合理化を図る必要がある。特にインターネット等最新の情報技術を活用し、最新の測量成果のオンライン提供や利用者の要望に個別に応じたオンディマンド地図の提供等を行うべきである。
 b. 基本測量成果は、原則として無償で公開されるべきであるが、情報の複製・流通に要する費用を勘案し、適切な価格で提供されるべきである。
 c.測量成果の利用に当たっては、適正公平な利用を妨げない限り、特段の制限を設けるべきではない。また、申請項目の見直し等、利用に当たっての行政手続きの一層の簡素化を行い、国民の負担を軽減すべきである。

2 公共測量と民間測量(基本測量・公共測量以外の測量)

(1)測量成果の品質確保

 1) 現状と問題点
 ディジタル地理情報の普及とともに、空間データの品質について新しい定義が議論されている。ISOにおいては、空間データの品質は発注者があらかじめ提示した仕様と現実に作成されたデータの食い違いによって定義するものとされ、現在、地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議(注)等で議論が進んでいる国内標準の策定作業でも同様の認識がある。
 測量法では、測量の正確さを確保するため、国が公共測量の技術的基準を定め、さらに公共測量の作業規程の承認、実施計画書についての技術的助言、測量成果の審査等を行うことにするなど、個別の公共測量に対する関与を求めている。しかし、測量技術の進歩及び測量業の発達、さらに規制緩和等の観点から、国は個別の公共測量等の品質管理に一律に関与するのではなく、公共測量の基本的枠組みの設定を通じて、測量の正確さを確保することが求められている。
 一方、GISの普及に伴い、今後は民間を含めた多数の機関が測量成果を整備し、相互に利用することが予想されるため、これらのデータの円滑な利用を目的とした品質評価が重要となる。しかし、測量法には民間測量の品質確保と公開、提供についての特段の定めはない。
(注)地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議  GISの効率的な整備及びその相互利用に関して政府が一体となった取り組みを展開するため、平成7年9月、内閣に設置され、現在22省庁の局長級メンバーから構成されている。
 2) 今後の公共測量及び民間測量の成果の品質確保の在り方
 公共測量等の測量成果の備えるべき品質の設定とその確保は、基本的に発注者である測量計画機関が定め、その責任において行われるべきである。しかし、公共測量等の成果の不備は国民の財産や安全に重大な支障をもたらすものであり、測量の品質確保は極めて重要である。このため、国は測量作業や品質に関する技術基準の作成等を通して、公共測量成果の品質確保が適切に図られるよう必要な措置を講ずる。
 個別の公共測量に関する助言や審査については、国の関与は必要最小限にとどめ、必要に応じて民間能力を活用しつつ、簡素で効率的な行政の確立を図る。この際、測量計画機関の技術水準に応じ、新しい技術や手法の円滑な導入に関してのコンサルティングに民間能力を活用し、測量成果の品質確保を図ることも必要となる。測量成果の品質確保のために活用される民間機関等は一定以上の能力を有することが必要であるため、そのための制度や基準の整備も必要である。
 また、公共測量以外の民間測量についても、測量成果の流通と利用を促進するため、測量成果の品質を評価・認証する制度を設けるべきである。

(2) 測量成果の利用促進

 a. 現状と問題点
 測量法は、国土地理院に提出された公共測量に係る測量成果等の写を基本測量の測量成果等と同様に国土地理院長が閲覧・謄抄本交付という形で広く一般に公開・提供することにより、測量の重複を防ぐとともに、その利用を促進することとしている。しかし、公共測量成果の提出の数は増加する一方であり、地方公共団体及び国土地理院における事務量の増大を招いている。
 また、最近、高精度で汎用性の高い民間測量が実施されることが多くなっているが、これらの測量成果の流通と利用を促進するための施策が必要になっている。
 b. 今後の公共測量等の測量成果の利用促進の在り方 
 測量成果の流通と利用を促進するため、測量成果の所在情報をその品質とともに公開・提供するクリアリングハウスを整備する必要がある。地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議においてもクリアリングハウスの必要性は指摘されており、その整備には民間能力も活用すべきである。
 この際、基本測量及び公共測量のみならず民間測量の成果についてもクリアリングハウスに登録し、品質が認証された民間測量の成果については公共測量を含めて各種測量にも利用できるようにして、利用の促進を図る必要がある。