総合技術開発プロジェクト「GISを活用した次世代情報基盤の活用推進に関する研究」

研究概要

題名

総合技術開発プロジェクト
「GISを活用した次世代情報基盤の活用推進に関する研究」

国土地理院
国土技術政策総合研究所
独立行政法人 建築研究所

1.研究の目的

河川管理、道路管理、都市計画、下水道管理といった国や地方自治体が行う社会基盤整備に関する業務、すなわち建設行政の分野では、従来から積極的にGISを導入し、業務の効率化や高度化を図ってきた。このGISの導入には設備に大きな投資を必要とする上、そのデータ整備やメンテナンスにも多額の経費が発生する。
また、GISを導入してもその効果を十分発揮させることができなかったり、データの相互利用もそれほど進んでいないなど、様々な問題を抱えている。

本研究は、国、地方自治体等での建設行政におけるGISの活用方策とデータの相互利用を進めるため、GISモデル地区実証実験と密接な連携を取りながら、国土地理院、国土技術政策総合研究所、独立行政法人建築研究所が、GISのデータ構築と共有化の実現、GISの利活用方法の検討、GISの要素技術の開発等、GISを推進する上で発生する諸問題の解決や必要な技術の開発等を行うために実施したものである。

図-1 GISを活用した次世代情報基盤の活用推進に関する研究の全体構成
   図-1 GISを活用した次世代情報基盤の活用推進に関する研究の全体構成

2.研究内容

2.1 GISのデータ構築と共有化に関する研究

2.1.1 建設行政空間データ基盤の構築に関する研究
国土交通省や地方自治体等が行っている河川管理、道路管理、都市計画、上下水道の管理等、社会基盤整備に関する業務、いわゆる建設行政の各分野で共通に利用できるGIS基盤データの仕組み「建設行政空間データ基盤」を策定し、建設行政空間データ基盤の仕様書(案)を作成した。

仕様書(案)を策定する上で参考とした基盤地図データ(空間データ)の仕様書は、河川、道路、都市計画等の7つ(図―2)である。それぞれの仕様とそれぞれの業務を突き合わせ、品質要件や業務の内容を調査・整理し、問題点及び相違点について検討を行った。
また、仕様類の調査と併行して、建設行政の業務分析を行い、それぞれの業務が必要とする基盤地図データの項目と仕様について、共通項目の相互比較を行い、定義の違い等を整理し、応用スキーマの整備されていない基盤データについては、応用スキーマを試作するとともに、これらの結果をもとに「建設行政空間データ基盤製品仕様書(案)」を作成した。

図-2 建設行政空間データ基盤と各種基盤地図データの関係

平成14年度に改訂した「建設行政空間データ基盤製品仕様書(案)」に基づき、同年、運用実験用モデルデータの試作と実証実験を行った。
対象地域は、岐阜県大垣市内の国土交通省の直轄河川及び直轄国道が交わる約3平方kmの範囲である。
データ試作に使用した基盤地図データと提供機関は次のとおりである。

  • 河川基盤地図データ(国土交通省中部地方整備局木曽川上流工事事務所)
  • 道路台帳附図(国土交通省中部地方整備局岐阜国道工事事務所)
  • 大垣市都市計画基本図データ(岐阜県大垣市)
  • 地番現況図データ(岐阜県大垣市)
今回の実証実験の結果から、建設行政空間データ基盤製品仕様書(案)のデータ仕様に基づく、応用スキーマの有効性やXML形式によるデータ交換が可能であることが実証され(図―3)、また、ネットワーク上に分散するサーバ群に存在している各基盤データを、クライアント側で意識することなく表示できることが確認された。
今後はデータ仕様の細かい問題点や大規模システムでの運用についての課題について検討していく必要がある。

図-3 実証実験の結果(岐阜県大垣市)

2.1.2 道路GISデータの作成・更新技術の開発
公共事業の測量、設計データの電子化の進展に伴って、電子データのフェーズ間での利活用の効率化から、測量の成果をCADやGISデータとして利用することのニーズが顕在化している。
本課題では、電子地図(DM)、CAD、GISデータを相互に交換し、利用するための技術を開発するものである。道路事業におけるGISデータを低廉で安定的に作成、更新することを目的として、工事竣工時の道路GISデータの作成、更新についての方法を調査、検討した。

道路事業(工事段階)においてGISデータを作成・更新することを目的に、GISデータの更新・利活用を効率的、低コストかつ安定的に実施する仕組み(工事完成図(CAD)から道路GISデータを更新)についての検討を行った。
検討に際しては、業務プロセスの変更や効率的なデータ取得方法、広く用いられているCADでデータからGISデータへの円滑な変換方法などについて、現地実験を行いながら検討した。さらに、道路工事の際に作成するGISデータの製品仕様及び作成方法についても検討した。

道路工事の出来形計測をもとに道路基盤データを作成する際の「道路工事データ製品仕様書」及び「道路工事データ作成マニュアル」を作成した。また、CAD+属性データを作成してGISデータに変換する方法を開発した。


2.2 GISのデータ利活用に関する研究

2.2.1 国・地方自治体の河川・道路事業におけるGISデータの連携活用に関する研究
建設事業においてGISの導入、普及を図ることを目的に、GISデータの連携活用効果を具体的に検証する実験を中部地方整備局、岐阜県及び大垣市の協力を得て岐阜県大垣地区で実施した。 国と地方自治体とのGISデータの連携効果の高い業務として出水時対策業務および通行規制業務を選定し、GISを用いた情報共有システムを構築し、実証実験を実施した。

そして、実証実験の結果をもとに、情報交換・共有を評価するとともに、今後の建設事業における国と地方自治体とのGISデータの共有に関する検討を行った。

実験システムはWeb GISをベースにしたもの(図―4)で、中部地方整備局及び岐阜県で整備した既存の光ケーブルを利用して岐阜国道事務所、木曽川上流事務所、岐阜県庁及び大垣市(情報工房)でネットワークを構築した。

実験に用いた地図は国土地理院、岐阜県及び大垣市の保有する電子地図、民間の住宅地図、デジタル道路地図など、主題データは水文情報、災害情報、通行規制、画像、水防活動などの国及び地方自治体が災害時に集める災害関連情報である。

図-4 システム画面イメージ

実証実験は平成13年度に実施、システムに関する参加者からの意見をもとに平成14年度はシステムを改良して再度の実験を実施した。
実験参加者に対してアンケートとヒアリングを実施し、出水対策業務における利用方法、出水時対策において必要な情報、実験システムの評価、実利用における問題点・課題等を抽出した。
主な意見として次のようなものが出された。GISを利用した情報交換・共有については、
  • 全体的にGISを利用した情報交換・共有の評価は高い。特に、県、市において、情報収集/判断/報告の迅速化が果たせるといった期待が大きい。
  • 河川系の部署、事務所において、道路の情報をリアルタイムに参照できる効果は大きい。

といったものが多く、地図上でリアルタイムに災害情報を共有、参照できることに対する評価を得た。一方、実運用における課題については、
  • 使いやすいシステムで、確実なデータ更新が確保されないと災害時には使えない。
  • 他の情報システムとの二重登録にはならないか。

といった災害情報システムとしての機能や既存システムとの連携に関する意見も寄せられた。

実験で得られた成果をもとに、国(国土交通省)と地方自治体との間でGISデータの交換、連携するための有効な方法を検討し、「出水時対策業務におけるGISの活用を目的とした情報交換のあり方の検討」を作成した。
また、今後のシステム開発の参考とするために出水時対策における情報共有のためのGISアプリケーションに必要な機能をまとめた。

2.2.2 基礎自治体における都市計画関連のGISのあり方
本研究開発は都市計画関連業務へのGISの更なる普及に向け、市街地の状況を常に把握する手法の開発を中心に、GISの活用について実証的に検討を行うものである。

地方自治体の都市計画関連業務に即して具体的な検討を行い、実証的アプローチを試みた。データに関する研究として、データ項目の削減に関する検討とデジタルオルソフォトの評価を行った。

また、システムに関する研究として、他の業務と連動した建築物現地調査支援システムの運用実験、GISと情報システムの連携可能性の検討、携帯端末型情報端末による現地調査支援システムの開発を行った。

データ項目の削減に関する検討から、現行の仕様の中には、業務に活用する際に重大な支障は生じないデータ項目があること、見慣れた図面から図柄が変わることによる違和感があることなどが明らかとなった。

今回のような仕様のデータを用いることにより、業務に支障なく都市計画関連業務へのGIS導入のコストを削減することができると考えられる。
デジタルオルソフォトの評価から、地図情報とオルソフォトの重ね合わせが土地利用などの市街地の現況把握に大いに役立つこと、事業の場所などを示す案内図としての活用に優れていることなどが明らかとなった。比較的安価なデジタルオルソフォトにより、 GISの利便性は大きく向上するので、今後の活用が期待される。

建築物現地調査システムの運用実験において、市街地の現況に関するデータを実態に即して常に更新する、実際の業務の流れに合った手法として開発された建築物の現地調査システムの検証を行った。その結果、建築確認申請データの活用により、新築建築物を捕捉することができ地図情報の更新が可能であること、しかしプライバシー上の問題に強く配慮する必要があることなどが明らかとなった。
課題は残るものの、効率的に市街地の現況把握が可能になる。

GISと情報システムとの連携の可能性の検討から、地図データとの連携が可能な台帳データは多岐にわたり極めて有用であること、しかしプライバシーへの配慮が強く意識されなければならないことなどが判明した。

今後、更に検討を重ねることにより、より良い形でのシステム活用が期待できる。

また、建物属性の悉皆(しっかい)調査支援を目的としたパイロットシステムを開発し、ケーススタディを通じ、有効に機能しうること、しかし市街地で個々の建築物を識別するほどにはGPSの精度が期待できないことなどが明らかとなった。
このシステムは、建築研究所のインターネットサイトで公開しており、無償で利用が可能である。


2.3 GISの要素技術に関する研究

2.3.1 大縮尺データの品質要求、品質評価手順書(案)の作成
国土地理院は、地理理情報標準第2版(JSGI2.0)に基づいて、公共測量を実施する場合に必要な製品仕様書、品質に関連する事項についての解説及びその基準を示した製品仕様書による数値地形図データ作成ガイドライン(案)(平成20年3月に改訂版を作成)以下「ガイドライン」という)を作成した。

ガイドラインは、地図情報レベル500、1000の数値地形図データを対象にし、測量計画機関、測量作業機関の担当者が利用することを想定してまとめたものである。

ガイドラインは、次の5つのパート(ガイドラインの使い方、製品仕様書による発注方式、地物定義と品質要求、製品仕様書の作成手順と検討事項、成果品の品質評価と報告)と製品仕様書のサンプル等が掲載された付録で構成されている。


2.3.2 ネットワークを介したGISの統合利用に関する調査研究
インターネットをはじめとするネットワークを利用し、GISデータを統合利用する目的でWeb Mappingの規格の調査および技術情報の収集をおこなってきた。特にISO/TC211に提案されたOGCのWeb Map Server Interface (WMS)について、規格化された内容を詳細に調査した。

この結果を受けて、現在国土地理院が開発中の電子国土Webシステム(平成15年度よりサービスを開始)の機能を利用したWMSサーバ及びクライアントの開発を行った。
このサーバは前述のWMSの仕様を満たすものであり、クライアントはWMSの仕様を満たす各サーバからのデータを統合利用することが可能である。
今後はこのシステムを実際に活用しサービスとして国民に情報を提供するための運用方法等について検討を行う必要がある。

3.終わりに

平成12年度から3年間に渡って実施された本研究は、国土地理院、国土技術政策総合研究所、独立行政法人建築研究所の密接な連携のもと、基盤データの共有化手法、地図データ品質の評価手法、効率的なデータ更新の手法、データの利活用やデータ提供に関する手法など、GISに関する様々な技術の研究と開発を行い、現在GISが抱える諸問題を解決する上で極めて重要な成果をあげることができた。反面、いくつかの技術的課題も抽出され、今後、これらの課題を解決していく必要がある。

今回得られたこれらの成果は、今後のGISの構築と利活用の推進に役立つものと期待できるが、実際の行政の現場に適用してゆくには、技術的な問題の解決もさることながら、異なる機関、部局が協力し、密に連携することが重要であり、このため、各機関の連携の方策や制度的な仕組みを検討していく必要がある。


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