平成19年(2007年)新潟県中越沖地震の被災地の地形・地質的特徴

Geomorphological and geological features in the areas devastated by the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007

国土地理院地理地殻活動研究センター  
小荒井 衛・宇根 寛・佐藤 浩
  
Geographical Survey Institute (GSI)  
Mamoru KOARAI, Hiroshi UNE and Hiroshi P. SATO (fax: +81-29-864-2655)  


 今回の地震の震源近傍の活断層と、建物の被害の多い柏崎市中心部周辺の地形と地質の状況は、以下の通りである。当地域は国土地理院の土地条件図が未作成のため、国土調査土地分類基本調査「柏崎・出雲崎」の地形分類図(新潟県, 1989)と、産業技術総合研究所(旧地質調査所)の5万分1地質図「柏崎」(小林ほか, 1995)を基にしている。

活断層

 地震調査研究推進本部によると、震源の東方約 15kmには、北北東~南南西の走向をもち、東落ちの長岡平野西縁断層帯が存在する。また、産業技術総合研究所(旧地質調査所)発行の「佐渡島南方海底地質図」(https://www.gsj.jp/Map/JP/docs/mar_doc/mar_43.htm)に、震源の西方約 15kmには、北東~南西の走向をもち、西落ちの海底断層が示されている。今回の地震とこれらの断層との関係は今のところ不明である。

斜面崩壊

 信越本線の青海川駅でホームを埋める大規模な斜面崩壊が発生した(図―1)。ここは崩壊した斜面の上に段丘の平坦面があり、段丘面上に国道や集落が存在している。
 この段丘面は標高 50mほどで、安田層と呼ばれる中位段丘堆積物で構成されている。最終間氷期(約 13万年前)に形成された段丘面と考えられる。信越本線は、この段丘の海食崖の下の海に面した箇所を通過している。TV報道映像を見ると、この海食崖の何箇所かで斜面崩壊が発生しており、土砂が海まで到達して海域を濁している。崩壊は海食崖の上部の段丘面の縁に近いところで発生しているものが多い。安田層下部の海食崖の地質は、新第三紀鮮新世の米山層で、下部が火山礫岩(主に円礫岩)、上部が泥岩である。

建物の倒壊

 柏崎市中心部は、西側が米山山地(地質は新第三期鮮新世の主に火山岩や火山砕屑岩からなる米山層)、北東側が地すべりが多数存在する西山丘陵(地質は第四紀前期更新世の砂岩・泥岩などからなる西山層から魚沼層で、北北東から南南西に延びる褶曲構造で特徴付けられる)に挟まれた沖積低地に位置する。
図1 斜面崩壊で被災したJR青海川駅の位置です。図の背景は国土地理院の50mメッシュ標高データと産業技術総合研究所の地質図「柏崎」を使用しています。

図―1 斜面崩壊で被災した JR青海川駅の位置。背景は国土地理院の 50m メッシュ標高データと産業技術総合研究所の地質図「柏崎」。
Fig.1 Location of JR Oumigawa station struck by the slope failure. Back image is based on 50m-grid digital elevation model overlapped by geological map “Kashiwazaki” published by National Institute of Advanced Industrial Science and Technology.


図2 柏崎市内周辺の地形・地質的特徴をあらわしています。赤丸はTV報道から確認した今回の地震の家屋倒壊地点をあらわしています。

図―2 柏崎市内周辺の地形・地質的特徴。赤丸はTV報道から確認した今回の地震の家屋倒壊地点。
Fig.2 Geomorphological and geological features around Kashiwazaki City. Red circles show the positions where houses were reported to be destroyed.


 低地は別山川、鯖石川、鵜川などが流入する柏崎平野と、海岸部の荒浜砂丘から構成される。柏崎市街地の南側に最終間氷期の段丘堆積物である安田層が、開析されて残丘状に残されている。現河川沿いに自然堤防が連続性悪く分布する。それ以外の大半は、谷底平野、三角州となっている。柏崎駅を中心とした市街地の南部は三角州に位置している。また、別山川に沿った荒浜砂丘の内陸側の部分は後背低地となっている。

 一方、荒浜砂丘は北は柏崎刈羽原子力発電所敷地から南は柏崎市街地まで連続し、北側では標高70~80mくらい、南側では標高 20mにかけて分布する。柏崎市街地の北部はこの砂丘上に位置し、明治期の旧版地形図を見ると旧市街地はほとんど砂丘上に分布し、南側の三角州は水田や荒れ地となっている。

 今回柏崎市中心部で住宅の全壊が多く報告されているが、全体的な分布は現時点では不明であるものの、報道されている場所は砂丘の末端部や、砂丘間低地、旧河道上に位置するようである。越後線北柏崎駅の南側に東西に延びる街道沿いに建物の全壊被害が多く分布するように見受けられる。ここは地形分類図を見る限りでは、砂丘と三角州の境界付近の砂丘の縁に位置するものと考えられる。このような場所では軟弱な沖積層の上に砂丘の砂が薄く乗っており、地震時に液状化や地盤の流動化が起こりやすいことが知られている。

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